今なお大ヒット中の『トップガン マーヴェリック』でトム・クルーズの次に重要な役を演じたマイルズ・テラーが、今度は小さなスクリーンで知られざる実話を語る。そのドラマシリーズ『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』は、永遠の名作『ゴッドファーザー』(1972)が製作された舞台裏を描くもの。

『ゴッドファーザー』公開から50周年となる今年、あの作品を実現させるためにどんな苦労があったのかを覗き見られるのは、実に興味深い。主演のテラーに、今作に主演した心境を聞いた。

【写真】大変すぎた制作現場! 『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』場面写真

■伝説作品のプロデューサー役にプレッシャー

 テラーが演じる主人公は、アル・ラディ。映画業界に入ったばかりのラディは、パラマウントのトップであるロバート・エヴァンスから、ベストセラー小説『ゴッドファーザー』のプロデュースを任せられる。だが、その過程は最初から険しかった。予算やキャスティングで揉めるだけでなく、この小説を気に入らないイタリア系のマフィアに執拗に邪魔をされ、命の危険を感じることもあったのだ。

 「僕が初めて『ゴッドファーザー』を見たのは、十代の頃。正直言って、その時はあまり良さがわからなかったが、ドラマスクールに入って再び見て、大傑作だと思ったよ。ギミックを使わず、常に緊張感を保ち続けるところがすごいよね。だけど、あの映画がどれだけの障害を乗り越えて作られたのかは、今回、このドラマに出演することになるまで知らなかった。映画を作るのはいつだって大変だが、頭に銃を突きつけられたプロデューサーはそんなにいないだろう。あの映画を作るのは大きな賭けだった。
多くの人が、あの映画のためにリスクを負ったんだ」。

 現在92歳のラディは、このドラマのエグゼクティブ・プロデューサーを務める。自分が演じる当の人物がすぐ近くにいるというのは、テラーにとって、当然、プレッシャーだった。

 「このドラマが完成したら、おそらくアル・パチーノやコッポラも見るんだろうと思うと、当然緊張したよ。だけど、それは同時にすごくエキサイティングなことでもあったんだ。自分がずっと尊敬してきた、これらの優れたアーティストの仕事を祝福するドラマを作るんだからね。それで僕はプレッシャーについてはできるだけ考えないようにして、この過程を楽しもうと決めたのさ」。

 コッポラやパチーノと違い、ラディが一般にはそれほど知られていない人だというのも、テラーに少しの安心材料を与えてくれた。

 「今作にはすごく有名な人たちがキャラクターとして登場する。それらのキャラクターを演じる俳優は、ここは押さえておかないと、という特徴をいくつか意識していただろうが、僕の場合、それはなかったよ。とは言っても、アルを知る人がこのドラマを見た時、アルらしいと思ってくれることをやりたかった。アルのエッセンスを掴み、彼のDNAがあるようなことをやろうとしたんだ。
アルは普通じゃない状況に何度も直面してきた人。彼を演じながら、僕はしょっちゅうアル本人に『こんなことをやらせてもらえてすごく楽しいです』とテキストメッセージを送っていた」。

 その言葉にも感じられるように、テラーはラディのことを心から尊敬している。このドラマを通じ、2人の間には、とても良い絆ができたようだ。

■「性格が悪くない監督、人柄も良いキャストと仕事をしたい」

 「初めて会った時、アルは僕に『アル・ラディ役がふさわしくないとわかったとしても、君に良いと思うプロジェクトがあと2本あるからな』と言ったんだよ(笑)。彼はバリバリのプロデューサーなんだ。それに、すごいプロデューサー。『ゴッドファーザー』がオスカー作品賞を取った時、プロデューサーの名前は彼だけだった。そんなことは、歴史上、あれで最後だったんだよ。つい最近も、彼は『クライ・マッチョ』を製作している。アルによれば、クリント・イーストウッドが『君はまだあの脚本を持っている?』と電話してきたことから始まったらしい。アルは30年以上前にあの映画を作ろうとしていたんだ。
そして、実現させたんだよ。彼はそういう人。困難の中でもやり方を見つける。常に行動する。彼は前しか見ない。後ろは振り向かない。90代になってもそうだ。そんな人物を演じさせてもらえたことを、すごく光栄に思う」。

 『トップガン マーヴェリック』とこのドラマの間には、Netflixが配信する映画『スパイダーヘッド』にも出演した。『オンリー・ザ・ブレイブ』『トップガン マーヴェリック』でも組んだジョセフ・コシンスキーが監督するSFで、共演はクリス・ヘムズワース。信頼する人々と一緒に、幅広い作品を作っていける今の状況に、テラーは大きな満足を感じている。

 「人生全体においても、キャリアにおいても、僕は今とても幸せだ。
僕の場合、そのふたつはつながっているんだけどね。僕は、優れた脚本を持つ作品に出たい。そして、性格が悪くない監督、演技力があって人柄も良いキャストと仕事をしたい。人生は短いんだから。実際、僕は、俳優としても人間としても最高な人たちと組んだことがある。どちらかを犠牲にしなくてもいいということさ。このドラマも、それらの条件を全部兼ねそなえていた。これからもずっとそれが続いていくことを願っているよ」。(取材・文:猿渡由紀)

 ドラマ『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』(全10話)は、U‐NEXTにて配信中。

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