
イタリアンファミリーレストランの「サイゼリヤ」が、2023年より徐々にモバイルオーダーを導入し始めている。スマートフォンを使ったセルフオーダー方式の導入に、SNSでは「5年越しの答え合わせ」と話題になっている。
ここにきてスマホオーダーを導入した嗅覚
〈5年越しの答え合わせです。サイゼの経営センスはマジで優秀なので、クソほどコストのかかるタブレット端末などというゴミは導入せず、モバイルオーダーの時代まで待つというとんでもない嗅覚を発揮しました。紙は過渡期運用だろうという読みは当たったと思うけど、これは読めなかった〉
このツイートは8万以上の「いいね」を集め、サイゼリヤの経営判断の巧妙さが改めて注目されるきっかけとなったなどと話題になっている。
確かに、多くの飲食チェーンがタブレット端末による注文に切り替えるなか、これまでサイゼリヤは「紙の注文用紙」を使い続けてきた。客自身が商品番号を記入し、店員に渡すという、一見アナログな方法だ。
しかし、今ではなくなりつつあるこの紙方式には、実はしっかりとした戦略があったと言われている。
サイゼリヤに取材すると、コロナ禍を契機に「オーダー時のお客様と従業員の接触時間を減らす」という目的から、紙によるセルフ記入式注文を強化したという。
「この方法は、大きな写真でメニューのイメージを確認できたり、直感的にページを行き来しメニューを選ぶ体験を実現していました。また、サイゼリヤでは複数のメニューを注文しコーディネートを楽しんでいただきたいとも考えております。注文用紙にメモした方が整理しやすいとのメリットもありました。」(サイゼリヤ・広報担当)
そんな中で、デジタル化(DX)の流れも見据え、「紙に記録する部分だけをデジタルに置き換える」ことが注文用紙方式のメリットを継承し進化できる方法と考え、スマートフォンを活用したモバイルオーダーの導入に踏み切ったのだ。
ここで特徴的なのは、すべてをデジタルに一本化しなかった点だ。
「注文用紙方式の継続も検討しましたが、注文方式が多いことでお客様も従業員も迷ってしまうことを低減するため、スマホを用いたセルフオーダー方式と口頭方式の2つとしております。
導入後、比較的多くのお客様から、『便利になった』『これまでどおりボタンを押すことで口頭の注文もあるので安心』などのコメントをいただき、今後も、お客様や従業員がより便利になるように進化させていきたいと考えております」(同)
サイゼのアレンジメニューは公式の公認?
スマートフォンに不慣れな人にも配慮し、これまでどおり店員に口頭で注文できるスタイルも残した。
また、実際にサイゼリヤの店員に話を聞くと、口頭を残すべきほかの理由も見えてきた。
「モバイルオーダーでは、“オイルや塩を抜いてほしい”“ドレッシングを少なくてほしい”という細かなカスタマイズへの対応はまだされていません。そういったお客様からの要望は口頭で聞き取るしかないかたちとなっております。
ホールで働いていますと、お子さん連れのお客様など、意外とこういったオーダーを受け取ることは多いです。ですので働く側としましては、こういったところも対応していただけると、より動きやすいかなと思ったりもしていますね」(都内・サイゼリヤ店員)
そして、サイゼリヤが“変わった”のは注文方式だけではない。2025年春には、新たなメニューも登場し、こちらも話題を呼んでいる。
新しく加わったのは、「チーズフォッカチオ」「タラコとポップコーンシュリンプのドリア」「ポップコーンシュリンプとタラコのクリームグラタン」など。注目すべきは、これらがすべて既存メニューの素材を活用したアレンジメニューであることだ。
確かに「チーズフォッカチオ」は、人気のフォッカチオにチーズを載せただけというシンプルな構成。
「タラコとポップコーンシュリンプのドリア」は、にパスタ用などで使用しているたらこクリームに単品商品の「ポップコーンシュリンプ」、そして基本のドリアを組み合わせた一品で、調理効率や在庫管理の面でも非常に合理的に見える。
広報部が「サイゼリヤでは複数のメニューを注文しコーディネートを楽しんでいただきたい」というように、サイゼリヤでは実は、日々客たちがメニューを掛け合わせて独自のメニュー開発をしている。
SNS上では独自のアレンジメニューを投稿して、その出来栄えを競うような投稿もよく散見されている。今回の新メニューはまさに、そういったものが正式に商品化されたということなのだろうか。
変わらない安心感と、変わっていく柔軟さ。そのバランスこそが、サイゼリヤの強みなのかもしれない。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部