現在放送中の連続ドラマ『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系/毎週水曜22時)、連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)で個性的な母親役を好演している女優の鈴木保奈美。鈴木といえば、1991年に放送された連続ドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)で演じた主人公・赤名リカをはじめ、数々のドラマで主演として大活躍をみせたが、そんな彼女のここまでの活躍を改めて振り返ってみたい。



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■鈴木保奈美の“現在地”と“出発点”

 『家庭教師のトラコ』で鈴木が演じるのは、エリート銀行員・上原利明(矢島健一)の後妻として家に入り、肩身の狭い思いをしながら、息子・守(細田佳央太)を育てていくという母親・里美。前妻の子どもたちと明らかに態度を変える利明に忸怩(じくじ)たる思いを持ちながらも、息子の夢を叶えようとする意地らしい母親であり、時には津軽弁を交えて守を守ったり、大暴れしたりと、人間臭いハートフルな母親を好演している。

 一方『ちむどんどん』でも、ヒロイン・暢子(黒島結菜)の恋人で後の夫となる和彦(宮沢氷魚)の母親・重子として登場すると、序盤は徹底的に暢子と和彦の中を引き裂こうと画策する執念深さは、ホラー的でもあったがどこか憎めないキャラクターだったのは鈴木の持つ華やかさが意地悪さを打ち消していたからだろう。

 上記2作品で演じた母親は、パワフルであり悲しげであり、コミカルさもあり非常に重層的で、観ていて面白い。まさにベテラン女優の貫録を見せている。

 そんな鈴木が大きく脚光を浴びたのが1991年に放送された連続ドラマ『東京ラブストーリー』。柴門ふみの同名コミックを実写ドラマ化した作品だが、本作で鈴木はヒロイン・赤名リカを演じ、大人気を博した。リカは異性に対して奔放で、情熱的なキャラクター。原作ではよりその傾向が強かったが、ドラマ版では奔放ながらも、いじらしさや一途なところが強調され、同性にも好感度の高いキャラクターになった。

 当時国内で社会現象になったばかりではなく、アジア各国でもドラマの人気は高く、鈴木が中国に行った際、若いスタッフが「リカだ」と涙を流して喜んでくれたというエピソードを披露していた。その後も『愛という名のもとに』『この世の果て』『恋人よ』(すべてフジテレビ系)など連続ドラマの主演を立て続けに務め、トップ女優の名をほしいままにした。

■2000年代の鈴木保奈美~復帰後はさらに幅を広げた役に挑む

 2000年代に入ると結婚や出産、子育てなどで女優業を休業している時期もあったが、復帰してからはこれまで以上に幅広い役柄への挑戦が見受けられる。


 2016年放送の『ノンママ白書』(東海テレビ/フジテレビ系)では、男性社会に切り込む49歳のバツイチ子なし女性・土井玲子を演じ、2018年に放送された『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)では、『東京ラブストーリー』以来27年ぶりに織田裕二と共演したことでも話題になったが、織田ふんする弁護士・甲斐正午の上司になる上杉法律事務所の所長兼代表弁護士の幸村チカを演じ、どちらも同性から“格好いい”という、彼女のこれまでのイメージを踏襲するようなキャラクターを演じた。

 一方で、2020年放送の『35歳の少女』(日本テレビ系)では、現在放送中の『家庭教師のトラコ』の脚本を担当している遊川和彦とタッグを組み、25年間眠り続けていた娘・望美(柴咲コウ)の目が覚めることをひたすら信じる母・多恵を演じたが、鈴木の白髪姿に驚きを感じた視聴者は多かったのではないか。劇中、多恵は「目覚めた娘を守れるのは自分しかいない」という信念のもと暴走する。ビジュアルを含め、こういったキャラクターを演じる鈴木は、非常に新鮮に映った。

 鈴木自身「変身願望」や「コスプレ願望」があると以前のインタビューで話していたが、役によってイメージが大きく変わることは、その欲求を満たしてくれると前向きだった。この言葉通り、現在放送中の『家庭教師のトラコ』や『ちむどんどん』でも、いい意味で周囲をざわつかせるキャラクターを魅力いっぱいに演じている。

 「どうせ生きるなら楽しい方がいいじゃないですか」と明るく話していた鈴木。近年の彼女の作品を観ていると「楽しんで演じているのだろうな」というのが伝わってくるほど、演じるキャラクターには、おかしみがあり魅力的に映る。年齢を重ねるたびに「今後どんな役を演じるのだろう…」という楽しみが増してくる非常に魅力的な女優だ。
 
(文・磯部正和)

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