『チェンソーマン』『進撃の巨人』『鎌倉殿の13人』…2022年、大人気なこの3作には、ある共通点がある。アメリカの大作ドラマゲーム・オブ・スローンズ』に影響を受けているのだ。

2011年から2019年に米放送され「史上最大のテレビドラマ」となった同作は、2010年代ポップカルチャーを変革した存在。その3つの文化的影響とは。

【写真】『チェンソーマン』『進撃の巨人』『鎌倉殿の13人』に影響を与えた『ゲーム・オブ・スローンズ』

(1)『進撃の巨人』:圧倒的な情報量

 ジョージ・R・R・マーティンの小説『氷と炎の歌』シリーズを原作とする『ゲーム・オブ・スローンズ』は、中世ヨーロッパのような世界で、複数の貴族が「鉄の玉座(王位)」をめぐって争うファンタジー大作。

 米国科学アカデミーの研究によると、人気の秘密は「登場人物の多さ」だという。各地域の膨大なキャラクターが入り乱れて敵対していく原作の「名前があるキャラクター」の数は、2000人に及ぶとのこと。これら人物が織りなす関係性の数は4万1000以上で、予想不可能なキャラ同士の相互作用は、現実の(個人が対処する)人間関係にかなり近いそうだ。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』にしても、初回の記名キャラは30人を超えるため「わかりやすい作品」の対極となっており、物語が盛りあがるまでやや時間がかかる。この圧倒的な情報量を意識した日本の人気漫画およびアニメが『進撃の巨人』。作者の諫山創は、連載途中より、結末から逆算して物語を組み立てていく『ゲーム・オブ・スローンズ』の帰納法、ライブ感ある面白さを炸裂させる日本の連載漫画の演繹法、その両方を取り込んだと語っている。実際『進撃の巨人』の後半は、さまざまな地域、立場の人々の意図や政治が複雑に絡み合い、大きな出来事につながっていく。

(2)『チェンソーマン』:SNSファンダム文化をつくった衝撃展開

 物語が複雑でキャラも多いとなると、視聴ハードルの高さに尻込みしてしまう人が多いのも確か。それでも世界的人気を誇った理由は、メインキャラの個性の魅力、強烈な暴力描写に加えて、予想もつかない衝撃展開の連続にある。


 「玉座」争いが進むにつれて主人公格すら殺されていく意外性は、毎週のようにSNSを騒がせていった。複雑な内容や設定にしても、インターネットで検索すれば解説にあたることができるし、ディープなファンの考察を楽しむこともできる。スマートフォンやSNSが普及した2010年代だからこそ大衆人気が成立した『ゲーム・オブ・スローンズ』は、今日のオンライン・ファンダム文化の基礎を形づくった。

 アニメが放映開始された漫画『チェンソーマン』の作者・藤本タツキも『ゲーム・オブ・スローンズ』を「読者の予想を超えて驚愕を与える物語」の筆頭例に挙げている。『チェンソーマン』にしても、衝撃展開を連続させることで毎週SNSを活気づけて考察させていく、連載漫画としての新標準を設定した作品となっている。

(3)『鎌倉殿の13人』:テレビドラマでしか成立しない大作

 最終シーズンの制作費は一話あたり10億円規模とも報じられた『ゲーム・オブ・スローンズ』。その売りは「映画的」とも絶賛された壮大な画面にある。

 しかし、2010年代アメリカのテレビ黄金期を象徴する『ゲーム・オブ・スローンズ』の重要性は、テレビシリーズでしか不可能なこと。もともと、人気小説であった原作に実写映画化の企画はあったというが、あまりに人物が多すぎて、2~3時間の映画フォーマットでは主人公級のキャラすらカットしなければ不可能だった。

 一方「短編小説的な映画に対して長編小説的」とされるシーズン制のテレビドラマなら、膨大な舞台、関連人物を丹念に描くことができた。かつて「映画より格下の文化」と見なされていたテレビドラマは『ゲーム・オブ・スローンズ』の大成功により「テレビでしかできない大作」のかたちを立証した。その功績のひとつとして、米テレビ業界最高の名誉であるエミー賞受賞数は史上最高の59回に及んでいる。


 日本を代表する劇作家・三谷幸喜も「テレビでしかできない大作」スタイルを牽引中かもしれない。『ゲーム・オブ・スローンズ』をお手本にしたというNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、ファンタジーの香りがする鎌倉時代の政治劇を意識したそう。

■新時代の『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』

 ちなみに、ファンタジーながら女性人気も高かった『ゲーム・オブ・スローンズ』は、その過激描写の多くから、ジェンダー表象を批判されることもあった。

 そして2022年、アメリカを筆頭とした世界中で文化現象となっているのが『ゲーム・オブ・スローンズ』のスピンオフ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』。今作では、家父長制が根づよい王朝で引き裂かれる女性同士の対立といったジェンダー問題にフォーカスがあてられている(ちなみに、シーズン1の主要人物は少なめなため『ゲーム・オブ・スローンズ』より見やすくなっている)。

 まだまだ進化して新時代をつくりつづける『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズ。10月末現在『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン1のすべてのエピソードが出揃ったところなので、ポップカルチャーのファンなら必見のタイミングだ。(文:辰巳JUNK)

編集部おすすめ