川口春奈主演、目黒蓮共演による、音のない世界で再会したふたりと周囲が織り成すストーリー『silent』(フジテレビ系/毎週木曜22時)がついにラストを迎える。これまで多くの名場面を生んできた本作。
【写真】2人の結末は…『silent』最終回の紬(川口春奈)と想(目黒蓮)
■紬と想 第8話「いたくて、いるだけ」 第10話「紬の声が聞きたい」
高校を卒業後、想の病気をきっかけに別れたふたり。8年後に再会し、また急速に惹(ひ)かれ合っていくが、聞こえる世界と聞こえない世界に分かれたことで、かつてとは距離感が違った。一緒にいられればうれしい紬に対し、想は自分といるのは「大変なんじゃないか」「疲れるんじゃないか」と引け目を感じてしまう。
第8話の冒頭、紬から想への「しゃべらなくても好き」という気持ちが伝わっていたはずだった。しかしバリアフリー字幕付きの映画限定で作品を選んだり、バイト先の後輩からの微妙な視線を感じたり、そもそも手話を使って会話をすることの大変さを想像して、想はどうしても「ごめん」と重ねてしまう。大変だったら、こんなにも早く紬が手話を使えるようになるはずはないのに。想と話したいから、その一心でしかないのに。自分の思いを母との会話から再認識した紬は、第8話のラスト、想に気持ちを伝えた。「いたくて、いるだけだから」「何もしてあげられないし、してあげようと思って一緒にいるんじゃないから」と。
それでも第10話、想は紬と離れることを選択しようとする。紬のイヤホンをつけ、やっぱり自分には聞こえないと苦しさを再確認をし、自分の声が好きだった紬に、声を届けられないことだけじゃない、自分が「紬の声を、笑い声を聞きたい」「名前を言ってほしい」「あの頃のままの青羽を見るたび、自分が変わったことがつらい」と気持ちを絞り出したのだった。
高校時代の放課後、自分から青羽に話しかけようとしたのを止めて、あえて「佐倉くん」と名前を呼ばれるのを待った想の笑顔。きっと、その体には紬の声が残っている。
■奈々と春尾 第8話「名前呼んだら振り返ったから、びっくりした」
想に切ない片思いをしていた奈々(夏帆)だったが、過去にも大切な思い出があった。大学時代、パソコンテイク(聴覚に障がいのある学生のために、授業を同時テキスト通訳する)ボランティアをしていた春尾(風間俊介)と出会う。ほかの人にはない実直さを互いに感じて、少しずつ惹(ひ)かれ合っていく奈々と春尾。やがて春尾は奈々のために、手話を覚え始める。
あるとき、大学の構内で階段を上る奈々を見かけた春尾は、「奈々」と声に出して呼びかける。その瞬間、奈々が振り返った。「名前呼んだら振り返ったから、びっくりした」と驚く春尾に、こぼれるような笑顔で、「春尾くんの声、聞こえたから」とおどけながら。春尾は、奈々がいる階段を上って行き、ともに歩き始めた。
しかし紬と想が再会したことで、奈々と春尾もまた再び出会った。第10話での居酒屋の「桃野さんみたいな人は、桃野さんしかいなかった」の春尾の言葉へのはにかむような奈々の笑みは、大学時代の“ニコっと音が聞こえてくるような”笑顔ともまた違う、経験を重ねて大人になったからこそのすてきなほほ笑みだった。互いに思いを残しているふたり。どうかまた、春尾の心からの「奈々」が届きますように。
◆想と湊斗 第10話「想!」の呼びかけ
男女のそれではないが、想と湊斗(鈴鹿央士)にも、もはやカップルと言ってもいいのではないかと思える特別な絆が存在している。一見、湊斗から想への気持ちが強いと映りがちだが、想からの思いも特別。声を出すのが怖い想が、家族以外に、湊斗の前では声を出したことを、第8話では「湊斗は分かってくれると思ったから」と明かした。また、第10話で、これ以上、紬と一緒にいると苦しくなると感じた想は、紬からCDを借りることを躊躇(ちゅうちょ)したが、湊斗には、これからを思わせる「早く、(ありがとうの)ほかにも手話覚えろ」と文句をこぼしていた。
第10話、線路の向こうに想を見つけた湊斗が、近くまで駆け寄って手を振ったり、肩を叩いたりするのではなく、想に振り向いてもらうために“呼びかけた”。
湊斗は、想が自分の呼びかけに、振り向いて照れ笑いをしてくれる瞬間が、高校時代から大好きだった。それは第3話で、想の耳が聞こえないと知ったあとも、湊斗が何度も声で「想!」と呼びかけた理由としても描かれていたが、この第10話のシーンで、声が届かなくても、携帯の振動と「想!」というテキストで、ちゃんと気持ちは伝わるのだと教えてくれた。
伝えたい気持ち、言葉、そしてそれぞれに“名前”を呼ぶこと、呼ばれることを大切にしてきた『silent』。それはきっと自分にとっての特別な誰かとつながりたいことの表れだ。第8話で、想は紬に「もう少しだけ待ってて。聞かせたいことがあるから」と伝えていた。その思いを、閉じ込めることなく紬に伝えてほしい。(文:望月ふみ)