宮城発地域ドラマ『ペペロンチーノ』(2021年/NHKBSプレミアム)主演、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)、ディズニープラス・NHKBSプレミアム『拾われた男 LOST MAN FOUND』(2022年)出演を経て、民放地上波連ドラに帰ってきた草なぎ剛。多くのドラマ好きが待ちに待った新作は、『銭の戦争』(2015年/カンテレ・フジテレビ系 以下同)、『嘘の戦争』(2017年)から実に6年ぶりの『戦争』シリーズ第3弾『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜22時)だ。



【写真】役柄とは一転!穏やかな“つよぽん”スマイルに癒やされる

◆6年ぶり民放連ドラの現場で感じた変化「若い方たちに僕から何か拾ってもらえるものがあれば良いな」

 犯人が誰なのか、また、誰が味方で誰が敵なのか分からないハラハラの展開は、オンエアの度にツイッター世界トレンド入りを果たす注目度の高さとなっている。そんな中、話題の中心はなんといっても、愛する息子が事件に巻き込まれたことを機に復讐に燃える議員秘書(後に衆議院議員)・鷲津亨を演じる草なぎ剛の芝居だ。草なぎの芝居を毎週テレビドラマで観られる意義を噛み締めている視聴者は多いことだろう。その一方、ドラマの番宣で出演するバラエティ番組での楽しそうな表情も印象的だ。

 そこで改めて草なぎ剛に、戦争シリーズ前作から6年を経ての変化や、芝居をするときのイメージの作り方、バラエティへの思いなどをたっぷり語ってもらった。
 
――6年ぶりの『戦争シリーズ』主演ですが、草なぎさんにとって6年前は「昔」という感覚ですか。それとも「最近」でしょうか。

草なぎ:昔のようであって、最近のようで、どっちもですかね。6年間で舞台や映画など、いくつか現場を踏んできた中で、自分の中でちょっと身についたものもあったので。ただ、6年前に比べて自分より後輩というか、若い方たちと一緒になることで、僕からみんなに刺激になるものが何かあれば良いなと思いながら、出し惜しみせずに接しています。特に杉野(遥亮)くんや(小野)花梨ちゃん、坂口(涼太郎)くんには、僕から何か拾ってもらえるものがあれば良いなと思っています。それに、6年前は(大杉)漣さんがいらして、支えていただく思いでしたが、今は自分も年を重ねたことで、岸部(一徳)さんなど、年上の方への尊敬の気持ちとか、一緒にお芝居できる楽しさを以前より深く感じられる日々です。


――大杉漣さんはいつも褒めてくださっていたそうですが、草なぎさんは杉野さん、小野さん、坂口さんなどにどんな言葉をかけていらっしゃいますか。

草なぎ:僕は、何も声をかけないんですよ。皆さんプロだし、才能もある方々だから、基本的に教えることはないんです。僕も先輩方からすてきな言葉を頂いたことはあったけど、お芝居は“感じる”部分が多いので、言葉で表せないような温度感などを感じてくれればなと思っています。具体的に声をかけるとしたら、「早く寝ろよ」くらいかな。

――パフォーマンスにとっては睡眠がやっぱり大事ですか。

草なぎ:特に杉野くんはすごく真面目で、かわいいんですよ。だから、「ここは、ちょっとうまくいかなかったのかな」みたいに深く考え込むことがあるんですが、僕も杉野くんくらいの歳の頃には同じようにたくさん考え込んでいたので、僕なりに分かるな、そういう時期があったなとほほ笑ましく見られる自分がいます。だから「杉野くん、今日は何も考えず寝た方がいいよ」と声をかけるくらいですね。

――公式SNSでの動画を拝見しても、杉野さんとは息ぴったりですよね。

草なぎ:杉野くんとは(『嘘の戦争』でも共演していて)初めてじゃないですし、今回も杉野くんが演じている蛯沢眞人は、僕が演じている鷲津亨にとって特別に思い入れのある役ということもあるし。また、それを演じている杉野くんもすごく不思議な魅力があるんですよね。
僕は杉野くんより多少長くお芝居をやっているし、長く生きているので、分かってあげられる部分が少しあるのかなと思っています。逆に、僕のほうが杉野くんとか坂口くん、花梨ちゃんなど若い人たちから刺激を受けているところもあって、そういった関係性も画面から出ているんじゃないかなと思います。

◆演じる際は「力まず構えず、できるだけ何も考えない」 イメージは“剣士”

――毎週放送後は大評判ですが、反響はどのように受けとめていらっしゃいますか。

草なぎ:公式のツイッターを覗くと、楽しんでいただいている様子が見えますし、TikTokにあげてくださる方もいて、6年前にはなかったような盛り上がり方が楽しいなと思います。それに、差し入れがすごくいっぱいあるので、評判いいのかな、みたいな(笑)。営業部の方から高級なハンバーグ弁当が来たんですけど、差し入れの豪華さによって、「このドラマ、ハネてるな」みたいなことは感じています。僕もこの世界はもう長いので、一番身近なところで、ドラマがどれだけハネているのか分かるんです(笑)。

――同業者や他の現場のスタッフから感想を聞くこともありますか。

草なぎ:キャイ~ンの天野(ひろゆき)くんがツイッターでコメントしてくれていますが、他はあんまりないなぁ。だから、本当は評判いいのかなと疑心暗鬼になるけど、差し入れ見て「大丈夫だ」と。周りの人は僕に向かってつまんないなんて絶対言わないですからね。

――今日の味方が明日の敵になるなど、ハラハラの展開が続きますが、台本をどんな風に読んでいますか。


草なぎ:僕は基本的に自分のシーンしか読まないんですけど、今回はすごくエンターテインメントになっているので、犯人が誰なのか想像したり、近い人間も罠を仕掛けてくるのかなとか考えたりしながら楽しく読んでいます。『銭の戦争』も『嘘の戦争』もドキドキワクワクしたんですけど、今回はそこにもう1個「ワナワナ」を足している感じ。脚本の後藤法子さんはもしかしたらそこまで考えて、タイトルをつけているんじゃないかな。「ドキドキ・ワクワク・ワナワナの3段活用」みたいに、シャレもきかせているのかななんて思いながら、今回はどんなワナワナを仕掛けてくれているのか楽しみにしています。

――草なぎさんの演じる鷲津さんの冷静で頼もしいところと、無防備で危なっかしいところ、何を考えているか分からないところにもハラハラさせられますが、感情をコントロールされているんでしょうか。

草なぎ:正直、あまり何も考えていないんですよ(笑)。そのほうが観る人が想像してくれる気がするので、力んだり構えたりしないように、できるだけ何も考えないようにしています。

――考えず、構えずにいる、力の抜き方のコツはあるのでしょうか。

草なぎ:うーん……。僕の中にはイメージがあって、それは剣士なんですよ。剣士が刀を振るとき、筋肉モリモリの人が力いっぱい振る姿も強そうだけど、それよりもっと強いのは、それほど筋肉もなくて、でも、力を抜いて振る速さがものすごく速い気がするんですよ。僕は演技にもそんな感じが出せたらと思っていて。
ガチガチに考えるんじゃなく、「何も考えてないんじゃないの?」みたいなイメージで動けたら、より凄みや迫力が出るんじゃないかと思うんです。

――そのイメージは、剣道経験者だからこそたどり着いたものですか。

草なぎ:自分で剣道をやっていたこともあるけど、僕、(井上雄彦の)『バカボンド』が好きなんですよ。宮本武蔵がたどり着く境地が、力を抜いて剣を振ることで。実際、力んじゃうとパフォーマンスが下がるんじゃないかなと思うんですよね。無の状態って結局、1番体がよく動くと思うんです。

もちろん緊張はするじゃないですか。何も考えていない状況を作っても、カメラを向けられると絶対に意識はしちゃうから、最初からいっぱい考えていてもしょうがないと思うようになったんですね。もちろん最初からそんな風に考えられたわけじゃなく、昔は台本を何回も何回も読み込んでいるときもありましたが、徐々にそうやって無の状態を作るようにしていくと、体がよく動く感じがつかめてきたんですね。だから今は、お芝居を剣士に例えて「強い剣士になるにはどうするの?」という自分なりに編み出した妄想で臨みます。僕、そんな風に妄想するのが好きなんです。

――お芝居について「天才」「憑依系」と言われることも多いですが、それをどう受け止めていますか。


草なぎ:うれしいけど、特に意識してないかな。お芝居は観る人が評価してくれれば良い話で、自分ではよく分からないし、分かっていなくて良いんですよ。むしろ役者って、ラッキーな仕事だなと思うんです。アスリートとかだと速さや高さ、距離など、数字で出てしまうけど、芝居に関してはそれがないから。だから難しいけど、逆に言うと有利じゃないかとも思うんですよ。僕はそういう基準のなさを逆手にとって、楽しむ。いろんな人間がいるのだから、みんな気にせず自分の考えた通りに楽しんでお芝居したら良いと思うし、楽しんだもん勝ちの世界だと思います。

◆バラエティ出演は楽しいけど緊張「楽しめなかったらどうしようという恐怖心がある」

――お芝居に定評がある一方で、草なぎさんがドラマの番宣で楽しそうにされている姿を見て、バラエティとの相性の良さも改めて感じました。

草なぎ:バラエティは楽しいけど、違う緊張があるんですよ。ドラマの場合はセリフが決まっているけど、特に番宣だと言うべきことをちゃんと言わないといけないじゃないですか。だから、自分が楽しめているかどうかがいつも1番心配なんですよ。生放送だと、マズイこと言っちゃったらいけないから、せっかく出ているのに楽しめなかったらどうしようという恐怖心がある。
怒られてもいいから、バラエティもドラマも思いきりやってやろうとは思うんですが。

――草なぎさんでも怒られることがありますか。

草なぎ:今はコンプライアンス的に厳しくなっているから、「これ言っていいのかな」とか、ちょっとしたことでもすごく考えるわけですよ。それで、すごく疲れちゃうの。自分のYouTubeとかだったらいいけど、同じテンションで出ちゃって、ポロッと変なことを言っちゃうんじゃないかとすごく心配で。だからと言って、硬くなって、何も喋れなかったというのが、番組を終えて帰った時に一番落ち込むときであり、一番怖いことなんですよね。

――正直さも、デニムなどの好きなモノも、考え方も生き方も、ずっとブレない人というイメージがあります。ブレずに生きる秘訣は何ですか。

草なぎ:確かに好きなものは、10代の頃からちょっとずつアップデートして再構築しているだけで、基本的にはずっと変わらないですね。90年代ファッションとかも、リバイバルで今も同じようなものが流行ったりするし、映画などの作品でも、『ゴッドファーザー』シリーズとか『タクシードライバー』とか『パルプ・フィクション』とかに好きなモノは全部詰まっていると思うし、そういう作品がベースになって作られた作品が多い気がするから。奇しくも僕は良い時代に生まれたんだと思います。

――では逆に、変わったもの、昔は苦手だったけど好きになったものなどはありますか。

草なぎ:最近、ギターが好きになったんですよ。昔はそんなに好きじゃなかったけど、ここ10年でギターにハマっています。それに、昔も散々歌を歌っていたけど、実はそんなに好きじゃなくて、音楽も昔はあまり聴いていなかったけど、今のほうが音楽が好きになって、たくさん聴くようになりました。

あ!(不意に身を乗り出し、キラキラした目で)あとはね、大福が好きになったかな。昔は黒豆がついている大福なんて全然食うこともなくて、完全にノーマークだったのに、今は少し好きになったの。だから今、差し入れとかに大福があると、「1個持って帰ろうかな」とか、目の端でちらっと見ちゃっている自分がいてね。そこが1番変わったかもしれないですね(笑)。

(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)

 ドラマ『罠の戦争』は、カンテレ・フジテレビ系にて毎週月曜22時放送。

編集部おすすめ