1978年に第31回日本推理作家協会賞を受賞した大岡昇平の裁判小説『事件』が、WOWOWにて椎名桔平の主演で連続ドラマ化され、8月から放送・配信されることが決まった。

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 1978年製作の映画版は、丹波哲郎、永島敏行、松坂慶子、大竹しのぶ、渡瀬恒彦らが共演し、数々の映画賞を受賞した。

今回のWOWOWドラマ版では、舞台を昭和から令和に移し、取材を元に当時未導入の裁判員裁判制度での心理戦を描写。生まれ育った環境から飛び出そうと葛藤する人々を通して、閉塞(へいそく)した今を生きる人々の孤独や苦悩と同時に社会の闇を残酷にえぐり、その先に光る繊細な希望を人間ドラマとして濃密に描く。

 監督を務めるのは、『連続ドラマW インフルエンス』『連続ドラマW 絶叫』など重厚な人間ドラマを数々手掛けてきた水田成英。

 ある資材置き場で刺殺体が発見される。被害者は地元で細々とスナックを経営する20代女性。ほどなく19歳の青年が殺人及び死体遺棄の容疑で逮捕された。
青年の弁護は、ある裁判を機に過去にとらわれ、“真実”に背を向けた元裁判官の弁護士・菊地大三郎(椎名)に託された。青年の自白もあり、すぐに判決が下る単純な裁判だと思われたが、検察での取り調べから一転、裁判で青年は殺意を否認する。青年のことを調べるうちに、再び“真実”と相対する菊地。やがて法廷では意外な事実が次々と露見し、裁く者を惑わせる。果たして青年は、本当に「人殺し」なのか―。

 主人公の弁護士・菊地大三郎役を務める椎名桔平は、WOWOWでは『連続ドラマW 神の手』以来、約4年ぶりの主演。
本作では、過去に裁判長として自身が下した判決がトラウマになりながらも、抜群の洞察力と機知に富む弁舌で、裁判という空間と誠実に向き合い、殺人の罪を問われている被告人と被害女性のみが知る事件の裏に潜む孤独と絶望、その闇の真相を、痛みを伴いながらもたぐり寄せていく元エリート裁判官の弁護士を演じる。

 椎名は「『間違わない人間なんていない。間違えれば、やり直せばいい』その言葉にようやく辿り着いた菊地の心情を一つの拠り所と考えて演じました。法廷ミステリーとしてだけでは無く、人間賛歌の作品としても、是非皆さまに見て頂けたら嬉しく思います」とコメント。

 水田監督は「当初、『事件』は『若草物語』というタイトルで新聞に連載されていました。法廷ミステリーである『事件』を、現代の若者が抱える生きづらさ、若さや貧しさゆえの弱さ、青春も描かれた人間ドラマとしての側面とあわせてお楽しみいただければと思います」としている。


 『連続ドラマW 事件』は、WOWOWにて8月放送・配信スタート(全4話)。

 椎名、水田監督のコメント全文は以下の通り。

<コメント全文>

■椎名桔平(菊地大三郎役)

――本作のオファーを受けた際のお気持ち

 裁判小説の傑作と謳われる原作を、「現代に置き換え、人間ドラマとして骨太な作品を作りたい」との趣旨を頂き、大変だろうけど是非演じてみたいと思いました。

――原作もしくは脚本を読まれた際の感想や、今回演じられた役・菊地大三郎についての印象

 原作は半世紀以上も前の小説ですが、そこに描かれた人間模様は今も色褪せない魅力に溢れています。多くの人が詳しくは知らない裁判の制度や手続きが、驚くほど緻密に書かれていて、そのドラマチックな展開に心が躍りました。

 脚本に関しては、500ページ余りの原作を、その推理要素の面白さを損なう事なく全4話にまとめ、時代背景を現代にする上で、とても上手く裁判員制度や成人年齢引き下げによる影響を取り入れていました。
そこから弁護士である自分の役において、タブレットを使用してメモや現場写真を撮る事を思いついたり、少しパーマをかけたヘアースタイルを考えたり出来ました。

 元裁判官で現在は弁護士である菊地は、裁判官時代の5年前に自ら下した判決について、今も自問自答を繰り返している人間です。刑事事件を裁く責任の重さを改めて感じさせられるキャラクターであり、50歳を過ぎた彼が事件を通して成長する姿に、自分の人生を重ねてみたりもしました。

――役作りで心がけたことや、撮影を終えての感想、撮影現場の印象

 役を作る上では、しつこく脚本を読み込みました。そして遠方にいる知人の弁護士に、メールを通して何度も疑問点に答えてもらったり、現職の裁判官と面談が叶う幸運にも恵まれました。その後、殺人事件の刑事裁判の法廷に傍聴に行き、実際の裁判の空気感や法律用語の言い方などを参考にさせて頂きました。
現場でも弁護士の監修が立会い、収録の直前まで、リアリティにこだわりました。真冬の寒さ厳しい時期の撮影でしたが、スタッフ、キャスト全員で真摯に作品に向き合い続け、撮影終了時はやり切った感で一杯でした。正月返上で準備をしてきたスタッフの皆さんに、ゆっくり休んでねという気持ちでしたね。

 撮影現場の印象としては、重い題材を扱っている事もあり、常に一定の緊張感を携えている感じでした。その中で水田監督を中心に、全員が持てる力を余すこと無く、懸命に現場に取り組んでいる現場でした。

――視聴者の皆様へメッセージ

 「間違わない人間なんていない。
間違えれば、やり直せばいい」その言葉にようやく辿り着いた菊地の心情を一つの拠り所と考えて演じました。法廷ミステリーとしてだけでは無く、人間賛歌の作品としても、是非皆さまに見て頂けたら嬉しく思います。

■水田成英監督

――本作をドラマ化するにあたっての感想・意気込み

 「裁判」は決して遠い存在ではありません。被告人や証人として証言台に立ったり、裁判員として参加したり……誰もが関わるかもしれない、身近なものです。約半世紀前に書かれた原作の、フィクションとは思えぬ程のリアリティ、そして、裁判員制度が始まった現代裁判ならではのリアリティを感じていただければと思います。

――主演の椎名桔平さんについての印象

 実際の裁判の傍聴に行ったり、専門的なことまで自ら弁護士の方に取材をしたり、準備段階から撮影まで、我々も大事にしている「リアル」に、細部までこだわっていた印象です。菊地弁護士目線で、細かい台詞の言い回しを考えたり、現場でアイデアを出したりしながら、人間味のある菊地弁護士を作り上げてくれました。

――撮影で心がけたことや撮影を終えての感想

 半年以上、裁判所に足を運び、40件程の裁判を傍聴した経験を、画や台詞の細部にいかしました。傍聴中、検察の話を聞くと極悪人に見えた被告人が、弁護士の話を聞いていたら同情したくなることがありました。このような、実際の裁判を傍聴しているような感覚を『事件』でも表現できればと思っております。

――視聴者の皆様へメッセージ

 当初、『事件』は『若草物語』というタイトルで新聞に連載されていました。法廷ミステリーである『事件』を、現代の若者が抱える生きづらさ、若さや貧しさゆえの弱さ、青春も描かれた人間ドラマとしての側面とあわせてお楽しみいただければと思います。