2010年に映画化され、話題を呼んだ男女逆転の歴史映画「大奥」が再びスクリーンに帰ってきた。テレビ放送されたドラマ「大奥~誕生~[有功・家光篇]」の続編にあたる物語となっており、主演は堺雅人と菅野美穂が務めている。


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 この大奥、ちょっと設定がややこしいので簡単に説明しておこう。

 舞台となるのは江戸時代の日本。若い男性だけがかかる赤面疱瘡(あかづらほうそう)という奇病によって男性の数が激減し、そのため女性が社会を運営する“男女逆転”の現象が起こっていた。それは幕府においても同じことで、将軍の座は女性が代々引き継ぎ、国を統治していたのだった。

 そんな江戸城の奥深くに「大奥」と呼ばれる場所があった。そこは若く美しい男性を多く集めた、いわば将軍のためのハーレムであり、きらびやかな見た目の裏ではドロドロした権力闘争が行われていた――。


 そもそもは2010年、原作第1巻を実写化した「水野・吉宗篇」が二宮和也、柴咲コウ主演で映画化され、これが大ヒットを記録したことから、2012年のテレビドラマ版「有功・家光篇」、そして今回の「大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]」の制作に至ったというわけだ。原作は時代を少しずつ変えながらまだまだ継続中なので、このままヒットが続けばTBSにとってはドル箱コンテンツになるかもしれない。

 そんな生々しい銭の話はさておき、本作「右衛門佐・綱吉篇」は右衛門佐(堺雅人)と綱吉(菅野美穂)による切ないラブストーリーを描いた物語。綱吉はご存知、生類憐れみの令で民を苦しめたとされる将軍で、歴史漫画あたりでは暗愚な将軍として描かれることが多い。しかし本作では、綱吉はむしろ運命に翻弄された悲劇の将軍として描かれており、“男女逆転”という設定とあいまって新鮮味がある。 特に今回は、「将軍は跡継ぎを生むための傀儡(かいらい)」という男女逆転によって起きた将軍家の歪な構造をディープに描いており、2010年の「水野・吉宗篇」に比べると世界観の肝となる部分へと一歩踏み込んだ感がある。
これは同じシリーズを続けているからこそできたことだろう。

 そこに堺雅人と菅野美穂という芸達者な二人を主役として据え、さらに脇には西田敏行と尾野真千子という実力派を持ってきたキャスティングがうまい。……まあ堺雅人についてはイメージと合わないという人もいるかもしれないが、そこは十分演技力でカバーできていると思う。ちなみにテレビドラマ編の有功も堺雅人が演じており、姿は似ているけれど性格の違う二人を巧みに演じ分けている。これができる俳優で役に合う人物は……となると、たしかに堺雅人以外にはいないかもしれない。なお個人的には、桂昌院に西田敏行をあてたキャスティングが絶妙だと感じた。


 ストーリーに関しては細かい部分はもちろん端折られているが、大筋は原作に忠実であり、その原作は抜群に面白いので特に言うことはない。テレビドラマ版を見ている人ならニヤリとするシーンもあるが、もちろん映画だけでも十分楽しむことができる。

 TBSにとっては失敗できないシリーズということで、悪く言えば無難で想像を超えない出来ではあるが、俳優の力とテレビ局の資金力でしっかり見られる作品に仕上がっているという印象だ。前作を観た人、原作ファン、歴史好きな人は観て後悔することはないと思う。(文:山田井ユウキ)