子役からキャリアをスタートさせ、数々の映画やドラマで活躍をみせる伊藤沙莉。昨年放送されたNHK連続テレビ小説『ひよっこ』では米屋の娘“米子”を演じ、視聴者に強いインパクトを与えるなど、これまでは一筋縄ではいかない役を演じることが多かったが、現在放送中の連続ドラマ『いつまでも白い羽根』(東海テレビ・フジテレビ系)では、自身で「とにかくまっすぐで黒い部分がない役」と語るように、明るく元気で前向きなキャラクターに挑んでいる。


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 伊藤といえば、小学生のころに出演した『女王の教室』(日本テレビ)での強烈ないじめっ子役に代表されるように、ややエッジの効いた役柄を見事に演じる個性派女優として注目を集めていたが、本作で演じている千夏は「嫉妬はこの世で一番黒い感情」と、なんのためらいもなく言い放てるぐらい純粋で前向きな女の子だ。

 この点に対して伊藤は「役のうえですが、いままで散々、人をイジめたり、ヤバイことばかりしてきたので、こんなにもピュアでキラキラした女の子をちゃんと演じられるのだろうか」という不安が大きかったという。そこには「これまでは悪のなかにある、ちょっとした善を出す作業が多かったのですが、善で作られた人のなかにあるモヤモヤというのは、善が強調されると見えづらくなってしまうのでは」という危惧があったという。

 しかし、そこは数々の場数を踏んできた伊藤。自身の不安はどこ吹く風で、ピュアで純粋な女の子のなかにある“モヤモヤ”や“危うさ”はしっかり表現されており、観ている側をいい意味でざわつかせる。「いい人って“どうでもいい人”になってしまう危険性がある」と会見で語っていたが、伊藤演じる千夏は第1話から存在感抜群だ。

 現在、映画やドラマに引っ張りだこで、彼女が出演した作品の監督やプロデューサーは、その才能と度胸の良さを絶賛するが、本人は「めちゃくちゃメンタルが弱くて、いつも吐きそうなんです」とやや意外な発言。さらに、こうして出演作が続いていても「誰がどう思っているか、すごく周囲の目が気になってしまうんです」と語る。 実際、厳しい意見や辛いことを言われた経験はたくさんあったという。「子役からお芝居の仕事をやらせていただいているのですが、めちゃくちゃ悔しい思いをたくさんしてきました。もちろん悔しいことばかりではありませんが、でも『なんでわざわざ傷つきに行くんだろう』と思いながら現場に行っていたし、『いまに見ていろよ!』という思いで続けていた部分はあります」。

 しかし、こうした苦い経験があるからこそ、見えてきた部分も多い。
伊藤は「いまはこうやってメインでやらせていただけていますが、以前は『あっちにいってろ』と外から見ていたこともたくさんありました。でもそこから見ていた景色があるからこそ、いまこうしてやらせていただいても、変わらずいられるし、そういった経験が自分の肥やしになっているのは間違いないです」と断言する。

 現在は多くのクリエイターから「沙莉ならなんとかしてくれるだろう」と期待されるほど頼もしい女優として存在感を示している。こうした現状に「自由な権利を与えてもらっている」と前向きにとらえる一方で、常に「こいつ意外とつまんねーな」と思われるかもしれないというプレッシャーと戦っているという。

 「キャラクターをキャラクターとしてしか表現しないことが嫌い」という伊藤。「どんな人物でも一面的ではない」というところから役柄にアプローチし、立体的に人物を表現することが目標だという。本作で演じている千夏も「明るく元気で前向き」というキャラクターの奥にある機微をしっかりとらえていくことが自身の役割だと考えている。

 過去の悔しい思いには「まだまだリベンジできていないです」と笑顔ながらも強い視線で語っていたが「役者・伊藤沙莉がもっと必要とされる人間にならなければいけないし、この役は伊藤じゃなければ…というところまで確立していきたい」と高い目標を口にしていた。(取材・文・撮影:磯部正和)

 オトナの土ドラ『いつまでも白い羽根』は、東海テレビ・フジテレビ系にて毎週土曜23時40分放送。
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