【写真】最後まで感動を与えてくれた『義母と娘のブルース』最終回フォトギャラリー
“ぎぼむす”の愛称で親しまれた同作は、漫画家・桜沢鈴が2009年から連載していた4コマ漫画が原作。仕事に生きるキャリアウーマンのヒロイン・宮本亜希子(綾瀬)が、小学生の一人娘・みゆき(幼少期・横溝菜帆、高校生・上白石)を持つシングルファーザーのサラリーマン・良一(竹野内)と結婚し、母親になるべく奮闘する姿とともに、娘をはじめ周囲のさまざまな登場人物たちの成長を描いた。
ドラマの要となる脚本を担当したのは、森下佳子。大阪府高槻市の出身で、小学生のときには演劇部に入っていた根っからの芝居好きだ。ミュージカル劇団でバックダンサーとして舞台を踏んだり、学生時代は演劇サークルで女優を経験、自ら立ち上げた劇団「パンパラパラリーニ」では演出・脚本を担当した。
そんな“芝居ラブ”な人生を送る中、日本テレビのプロデューサーの下、プロットライター(脚本化する前の企画段階で、あらすじなどを考える)を始めたのが脚本家の仕事につながった。これまでにドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)などでザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞をはじめ、NHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』では第32回向田邦子賞に輝いた。ほかにも『JIN ‐仁‐』(TBS系)、『天皇の料理番』(TBS系)、NHK大河『おんな城主 直虎』など、そうそうたる作品を手がけてきた。綾瀬とは2016年の『わたしを離さないで』(TBS系)以来、2年ぶりのタッグとなる。
「市井の人々の何気ない日常を、緻密かつ丁寧に書く脚本家です。派手なアピールなどは特にしない人ですが、彼女に任せれば作品が厚みを増すと評判ですよ」と話すのは、地上波放送局の50代男性プロデューサーだ。
「森下さんにも私生活では一人娘がいると聞きますが、特徴的で時に強烈さも垣間見える登場人物たちの個性を、違和感なく自然な日常生活の中に描き出していったのは、彼女の真骨頂でしょう」と、スポーツ紙の40代女性編集者は称賛する。
また、その脚本に命を吹き込んだのが、緻密な演出と俳優たちの演技だ。
綾瀬演じるヒロイン・亜希子はクールで最強のキャリアウーマンだが、亡き実母への思いを引きずる8歳の娘・みゆきとは初対面の日に問答無用のNGを出されてしまう。あらゆるスキルを駆使しみゆきの母になろうと奮闘するが、序盤ではほぼ無表情を貫いた演技が光った。表情の動かないはずの人形が、見る側の気持ちの揺れ動きに沿って微笑んで見えたり悲しんで見えたりするように、一見無表情な中に微妙な感情の移ろいが表現されていた。そして物語の進行とともに、次第に表情豊かになっていく。母と娘の10年間が、見事に伝わってきた。 みゆきを演じた横溝と上白石の好演ぶりも、ドラマを支えた。8月14日放送の第6話で物語は第2章に入り、みゆき役が横溝から上白石にバトンタッチされたが、このスイッチがうまくいったことがドラマをさらに盛り上げた。幼少期を好演した横溝に代わりみゆき役を担った上白石は、目の動かし方をはじめ表情のつくり方、細かな仕草まで生き写しのように違和感なく引き継いだ。演出と演技の両輪がガッチリと噛み合った瞬間だった。また、幼少時からみゆきに思いを寄せる大樹(ひろき)役も、子役の大智と比べスリムになったもののどこか面影を残す井之脇海へのスイッチが自然にハマッた。
そして、同時期にNHK朝ドラ『
もう一つ、闘病の末亡くなった竹野内演じる良一の存在感が、最終回までしっかりと残っていたのもドラマをより温かいものにしたポイントだ。竹野内の、生前の良一を演じた際の芝居が良かった証でもある。部屋に飾られた写真の中で微笑む良一と、良一の前妻・あい(奥山佳恵)に、亜希子は最終回でも報告や相談を欠かさなかった。亡くなったはずなのに、今も見守っているような安心感が、巧みに演出されていた。
原作漫画では亜希子の30年後が描かれているが、ドラマは10年後の時点で最終回となった。ここは続編への期待が高まるところだろう。(文:志和浩司)