イギリスBBCで人気を博した『Mistresses』を原作に、現代の日本人女性が感じている“生きづらさ”や“焦燥感”と正面から向き合う女性たちを描いたドラマ10『ミストレス~女たちの秘密~』。本作で、自殺した不倫相手の息子と惹(ひ)かれ合う女医・柴崎香織を演じるのが女長谷川京子だ。
近年、清濁併せ呑むキャラクターを巧みに演じている彼女が、現在の充実ぶりを語った。

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 長谷川演じる香織は、親が残した都会の小さな医院を継いだ内科・心療内科医。医者と患者という立場で知り合った建築家の木戸光一郎(橋本さとし)と不倫関係になったが、木戸が自殺。その死の理由を探る息子の貴志(杉野遥亮)と惹かれ合ってしまうという役どころだ。

 「今の日本は、一般常識や倫理観に強く囚われていて、とても生きづらい」と長谷川は語り「香織というキャラクターが女性に共感を得られるのか分からない」と冷静に分析する。しかし、だからこそ「どんな批判を浴びようとも、本能のままに生きられるというのはうらやましい部分もあります」と本音をのぞかせる。

 長谷川自身、香織という役柄を引き受ける際、40歳という年齢を迎え、社会の枠組みの中で生きていくことの大切さを実感しつつも「自分の気持ちにもっと正直に生きても良いのではないか」と強く感じたという。香織の生き方についても「皆さんどうぞ」とは推奨はしないものの、頭ごなしに否定するのではなく、いろいろある選択肢の1つだという寛容な見方の必要性を力説していた。

 長谷川の言葉通り、劇中では「生きるとは?」「人生の幸せとは?」というテーマに対して、香織をはじめ、友美(水野美紀)、冴子(玄理)、樹里(大政絢)という、全くタイプの違う女性が、それぞれ大きな問題を抱えつつも、正面から向き合う。その姿は多くの人に「前に進む力」を与えてくれる。

 本作の香織をはじめ、近年長谷川は一筋縄ではいかない役を演じることが多い。なかには“救いようがない濁った役”を平然と演じることもある。
「若いころはパブリックイメージに囚われることが多く、思い切ったことがやりづらかったのですが、今はあまり人の目を気にするような年齢ではないですからね」と笑う。

 今の長谷川にとって、イメージよりも大切なのは「期待をかけてもらえること」だという。「『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』でも悪役をいただき、最初はやっぱり悩んだのですが、プロデューサーや監督が愛情を持って口説いてくださったことがうれしかった。私に可能性を見いだしてもらえるなら、どんな役でもやりたいと思います」。
 気持ちが大きく変わっていったのには、自身の環境の変化も影響しているという。「子どもが生まれて、自分本位ではいかないことが多くなりました。子どもを通して社会とつながったとき、芸能人ではなく一人の人間になれたことは大きかったです。あとは子育てをしていると、なかなか仕事の融通が利かないのですが、そんなときでも声をかけていただけることに対する感謝も大きかったですね」。

 結婚や出産を経験しながらの女優活動。その歳月は20年を超えているが「一度もやめようと思ったことはないんです」と語る。長く続けてこられた理由を聞くと「好きだから」と即答した長谷川。肩ひじ張らず自然体――年を重ね、公私ともにますます充実しているように感じられるが「女性の40歳はなかなか痺(しび)れますよ」と苦笑いを浮かべる。


 「若い頃は自分たちのテリトリーの奪い合いで疲弊することもありましたが、年を重ね、人と共有する楽しさは増しているように感じます。自分に壁を作らなければ、相手も自然と同じように接してくれますからね。でも所々で“どうせ若い子の方がいいんでしょ!”なんて局面になると『もうあの頃には戻れないんだな…』なんて寂しさもあるんですよ(笑)」。

 緩急織り交ぜ、自身のことを自然体で話してくれた長谷川。“人間味あふれる”彼女だからこそ、演じた香織が多面的でミステリアスな魅力を兼ね備えたキャラクターになったのだろう。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 ドラマ10『ミストレス~女たちの秘密~』はNHK総合にて毎週金曜22時より放送。
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