山崎豊子の傑作小説をドラマ化する『連続ドラマW 華麗なる一族』(WOWOWプライム、WOWOWオンデマンド/4月18日より毎週日曜22時)で、“悪女”の相子役を演じる内田有紀。90年代にはショートカットの元気なイメージで人気を集めた彼女だが、「実は10代の頃から、女の情念を体現するような役柄に憧れていた」そうで、「相子はまさしく“こういう役を演じてみたかった”というような女性。

45年、紆余(うよ)曲折もあった自分自身の人生のすべてをぶつけなければ、太刀打ちできないような作品だった」と渾身(こんしん)の作品となったことを明かす。そんな内田が活発イメージに葛藤し、くじけそうになった過去。そして今、年齢を重ねたからこそ身に染みているという女優業の喜びを語った。

【写真】10代の頃から変わらない、真っすぐなまなざしが印象的な内田有紀

■ファム・ファタールを演じるプレッシャーと覚悟

 大阪万博を間近に控えた日本の高度経済成長期を舞台に、阪神銀行の頭取・万俵大介(中井貴一)とその一族の繁栄、崩壊を描く本作。相子は、表向きは万俵家の家庭教師。裏では、一家のさらなる繁栄のために大介の子どもたちの縁談を司る“閨閥(けいばつ)作り”を担い、大介の愛人でもあるという役どころ。美貌と教養を武器に、万俵家を翻弄(ほんろう)する“悪女”だ。これまでの映像化作品でも京マチ子や小川真由美、鈴木京香らそうそうたる女優陣が相子を演じており、内田は「私自身には、“妖艶さ”といったものは足りないのではないかと思っていますので、どうして私にオファーしてくださったんだろうと不思議でした」と驚きもあったと話す。

 プレッシャーも相当なものだったが、「“相子を演じる”という使命を預かったのであれば、戸惑って演じては、オファーしてくださった方や作品に対しても失礼なことになる」と覚悟したという。

 「45年、紆余曲折もあった自分の人生のすべて、身も心も魂、エネルギーもすべて出し切って向き合わなければ、太刀打ちできるような作品ではありません。プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、なんとか立ち上がって、相子という女性を自分の中になじませていきました」と戦った日々を述懐。「西浦(正記)監督とも話し合い、地を這うような声のトーンにしてみたり、蛇が蛙をにらみつけるような目の表情を作り上げたりと、相子の内面とリンクするよう、細かく役作りしていきました。
カメラマンさんや照明さんなど、素晴らしい職人さんたちに大変支えられ、“相子の美貌”という表現においては底上げしていただいた」とお茶目にほほ笑み、「貴一さんや監督をはじめ、スタッフ、キャストの皆さんに助けていただきながら、一緒に相子を作り上げることができた。とてもうれしいです」と目を細める。

■ボーイッシュなイメージに葛藤「期待に応えたかった」

 これまでの人生すべてを懸けて演じた、相子という役柄。内田は「大介の本妻への嫉妬に狂いながらも、彼に愛されたいという一心で生きている女性。彼女のような生き方は、めったにできるものではありません。相子を演じているときには、感じたことのないようないら立ちや心の葛藤が湧き出てくる瞬間があって、これまでとは違った表情を見せられたような気持ちもしています」と新境地への自信をのぞかせる。

 「相子を演じたことによって、まだまだ女優として学ばなければいけないことがあるという危機感も覚えましたし、今後の人生においても間違いなく力になる」と相子との出会いが宝物のようなものになったと心を込めるが、もともと彼女のような女性を演じることが夢だったという。

 1992年のドラマ『その時、ハートは盗まれた』(フジテレビ系)でさっそうと女優デビューし、一躍、人気者となった内田。「実は10代の頃から五社英雄さんの映画が大好きで。五社監督が描く、女の情念を体現しているような作品や役柄にすごく憧れを抱いていたんです。でも当時は、その真逆のような“ボーイッシュで元気”というイメージでお仕事をさせていただいていたので、私にはそういう役は逆立ちしても来ないだろうなって思っていて」と笑顔を弾けさせながら告白。

 さらに、当時は求められるイメージと自分自身の心との距離を感じて「すごく葛藤していた」と吐露する。
「私は体育会の学校の出身なので、ボーイッシュで元気と言われると、それに応えなきゃという責任感がありました。応援してくださる方が私の元気な表情を期待しているとすれば、どんなときもそうあらねばと頑なに思っていたところがありました。自身とのギャップを感じながら、葛藤していた時期だったように思います」。■「一歩、一歩、憧れに近づけている」苦しくとも立ち上がる、女優業の醍醐味(だいごみ)とは?

 葛藤する中では「このお仕事をやめたい」とくじけそうになったこともある。「20代のときには一度退いてもいますし、さまざまな経験を経て、そういった時代があるからこそ、自分の人生を寄り添わせながら演じるような、多面性のある役もいただけるようになったのかなと思います」と歩いてきた道すべてが女優としての力になっているという。

 大河ドラマ西郷どん』で芸妓役をしなやかに演じたのも印象深く、本作の相子役を通しても「一歩、一歩、憧れに近づけているような気がしています」とまさに実りのときを迎えている内田。

 今は「お仕事をする上で“遊び”を探している」とも。「年齢を重ねると、だんだん失敗できなくなりますよね。私も45歳になって、結果を出さなければ“今までなにをしてきたの?”と言われてしまうような年齢です。怖いですよね。この時期を乗り越えたら楽になるのかもしれませんが、多少の遊びを作りながら仕事と向き合うことがベスト」と話す。そんなときに背中を押してくれるのが先輩の存在で、兄妹役を演じた『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)に続いて、本作では愛人役として共演を果たした中井貴一からは「ものすごく刺激をいただいています」と語る。


 「貴一さんは、“年齢を重ねたら、セリフも少し話すだけでよくなって、もっと楽に仕事をできるんじゃないかと思っていた”とおっしゃっていて。でも本作で一番セリフが多いのは貴一さんなんですよ」と苦笑い。「貴一さんは“いつも苦しい道を選んできた”、さらに “でもそんな道を歩んできた自分を、ちょっといいかなと思っている”とおっしゃる。ものすごくすてきですよね。私もそうありたいなと思います」。

 「女優業は厳しい仕事」と生みの苦しみを実感しつつも立ち上がるのは、「一人でも、誰かの力になれたり、少しでも心を動かせるようなお芝居ができたら、ものすごく幸せ」と伝えることやつながることの尊さを感じているからだ。

 「以前、女同士のバトルを描くドラマに出ていたときに、ある女性から“毎週楽しみで、欠かさず観ています”と声をかけていただいたことがありました。小籠包を食べている途中だったんですが、“本当ですか!?”と喜びすぎてTシャツにタレをこぼした姿をさらしてしまいました(笑)。涙が出るほどうれしかったです。若い頃はなかなか深く物事を捉えきれない部分もありましたが、年齢を重ねたことで、より人のありがたみが身に染みて、作り上げたものが届いているということが、ものすごくうれしいと思うようになりました。歳をとるという価値を感じられることが幸せです」としみじみ。どの言葉からも女優として生きる責任感と喜びが溢れ出す。
今の内田有紀だからこそ演じられた悪女、相子の登場がますます楽しみになった。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 『連続ドラマW 華麗なる一族』は、WOWOWプライム・WOWOWオンデマンドにて4月18日より毎週日曜22時放送、配信スタート。全12話(第1話無料放送)。

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