日本における国民的セックスシンボルといえば、『アース渦巻』のCMやTBSドラマ『水戸黄門』でおなじみ由美かおるが長年そのポジションを占めてきたが、今やその地位は実写版『ヤッターマン』でボンテージルックに身を包んだ"ドロンジョさま"こと深田恭子のものとなった。それほど三池崇史監督の『ヤッターマン』におけるドロンジョさまは光り輝いている。
しかも、ドロンジョとヤッターマン1号(櫻井翔)は追いつ追われつの関係を続けることで、微妙な関係となっていく。お互いに相手のことを、自分が持っていないものを持った、もう1人の理想の自分として意識し始める。それは、まるで江戸川乱歩のミステリー『黒蜥蜴』の女盗賊・緑川夫人と名探偵・明智小五郎の"危ない関係"のようだ。マスクで顔の半分を隠したドロンジョさまが自分の内面を告白するシーンは非常に切ない。
それにしても三池作品における"ねじれたドライブ感"はどこから来たものなのだろうか。『DEAD OR ALIVE』(99)では哀川翔と竹内力が地球を滅亡に追い込み、『ビジターQ』(00)では内田春菊が『甲賀忍法帖』ばりの毒汁殺法を披露する。『IZO』(04)では人斬り以蔵役の中山一也が時空さえ飛び越えて、登場人物を次から次へと斬りまくる。
三池監督の自伝『監督中毒』(ぴあ出版)によると、大阪で過ごした高校時代はバイク仲間たちが、さらに助監督時代にはテレビドラマのスタントマンが、三池監督が見ている目の前でバイクに乗ったままデッドゾーンへと飛び込んでいったとある。安易な言葉でいえば、生き残った人間の使命感が、映像における表現の限界へと追い立てているということか。ハンドルを右に切れば地獄の一丁目、左に切れば底なし沼のような退屈な日常、という危険な一本道を三池監督はフルスロットルで疾走し続けている。
『監督中毒』では助監督時代に印象に残っている作品のひとつに、井上梅次監督が手掛けた土曜ワイド劇場『天国と地獄の美女』(82)を挙げている。
『天国と地獄の美女』は、自分の理想郷"パノラマ島"の実現化を妄想する男(伊東四朗)が夢を叶えるために犯罪を重ねる、歪んだ芸術信仰と愛欲のドラマだ。ゴールデンタイムでよくテレビ朝日は放送したものだと感心する。いつか三池監督も『パノラマ島奇談』を撮ってくれないかと夢想する。
(長野辰次)
●『ヤッターマン』
監督/三池崇史
脚本/十川誠志
撮影/山本英夫
出演/櫻井翔、福田沙紀、生瀬勝久、ケンドーコバヤシ、岡本杏理、阿部サダヲ、深田恭子ほか
配給/松竹、日活
全国公開中
http://www.yatterman-movie.com/
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