「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。
「喜怒哀楽のすべてを微笑みで表現する男」として名高い堺雅人が、今度は表情を百面相に変えながら、早口でまくし立て、喜怒哀楽を躍動的に演じている。
現在放送中の『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)は、そんな堺雅人扮する百戦錬磨の弁護士・古美門研介と、彼の事務所に転がり込んできた真面目で正義感に燃える黛真知子(新垣結衣)による法廷劇だ。その2人をサポートするのが、万能の事務員・服部(里見浩太朗)。そして彼らと因縁深い宿敵として登場するのが三木(生瀬勝久)。その助手として妖艶な魅力で暗躍するのが沢地(小池栄子)だ。
8:2分けの髪型でおかしな身振りをしながら早口で罵詈雑言を浴びせる古美門のエキセントリックで強烈なキャラクターは、チャンネルをたまたま合わせた者に激しい拒否反応を与えてしまうかもしれない。しかし一方で、瞬時に画面にくぎ付けにさせるような強力な磁力を持っている。
例えば、第4話では「日照権」をめぐって、住民側に立つ“人権派”弁護士・大貫(大和田伸也)と対決した。建設会社側の弁護を「お望み通り寝言ひとつ言わせません」と請け負った古美門に、黛は「金の亡者! 悪の手先!」と猛反発。正義は住民側にある、と主張する。そんな青臭いピュアな正義感を振りかざす姿に「ホントに朝ドラの主人公みたいなやつだなぁ」と呆れ、彼女に「朝ドラ」なるあだ名を進呈する古美門。
自分の足を引っ張ろうとする黛に「なぜそんなことをした?」と問いただす古美門。「正義を守るため」と答える黛に、古美門は「君が正義とか抜かしているものは、上から目線の同情に過ぎない。
くぎ付けにさせるのは、キャラクターたちの魅力だけではない。たとえば大和田伸也と里見浩太朗が対峙し“助さん格さん”が揃い踏みすると『水戸黄門』のテーマが流れたり、オープニングのタイトルバックが毎回少しずつ変わり、全話通したムービーになっていたりと、至るところに遊び心満載。
さらに、もともとワンシュチュエーションコメディとして企画されていただけあって、メインの舞台となる古美門邸のセットのこだわりは尋常じゃない。和洋折衷絶妙に配置された小道具(片隅にセグウェイまである!)や内装は見るものをドラマの世界に没頭させる。当初は台本になかったという食事シーンも、“人間の欲を否定しない”というこのドラマを象徴するものだ。
そして、このドラマ最大の原動力は、なんといっても古沢良太の脚本だ。『ALWAYS 三丁目の夕日』『キサラギ』『ゴンゾウ 伝説の刑事』『相棒』『鈴木先生』と振り幅の広い脚本で評価の高い彼の特長は、スピード感溢れた物語展開と伏線が張り巡らされた緻密な構成が両立している点。「ながら見」を許さない、くぎ付けにならざるを得ない脚本であり、まさに『リーガル・ハイ』はその真骨頂なのだ。
脚本・演者・演出が互いに信頼し合い、そして何より視聴者を信頼して作られている。それらが一体になって、ある高みに到達しようとしている。
いよいよクライマックスに突入した『リーガル・ハイ』。
「土を汚され、水を汚され、病に侵され、この土地にももはや住めない可能性だってあるけれど、でも商品券もくれたし、誠意も絆も感じられた。(略)これで土地も水も甦るんでしょう。病気も治るんでしょう。工場は汚染物質を垂れ流し続けるけれど、きっともう問題は起こらないんでしょう。だって絆があるから!」
彼らのやりとりに「原発」などの問題を想起させるのは容易だ。でも、それだけではない。思い当たることは、僕らの心の中に無数にある。だから彼の毒舌は痛いし、響く。
「誰にも責任を取らせず、見たくないものを見ず、みんな仲良しで暮らしていければ楽でしょう。しかしもし、誇りある生き方を取り戻したいのなら、見たくない現実を見なければならない。深い傷を負う覚悟で、前に進まなければならない。戦うということは、そういうことだ!」
『リーガル・ハイ』は「絆」などという“美しい”言葉が覆い隠してしまったものを、古美門の罵詈雑言で駆逐していく。僕らの「見たくない現実」を白日のもとに晒す。そして正義の概念を揺るがし、僕らが飼いならしてきた善良な正義の欺瞞を裁いていくのだ。
(文=てれびのスキマ <<a href="http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/"target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)