何かが狂ってしまった現代社会。毎日のように流れる凶悪事件のニュースは尽きることを知らない。
第27回
名古屋市西区主婦殺人事件
(1999年11月)
愛知県名古屋市の中心部から、約4km北上したところに位置する西区稲生町。日本のどこにでもありそうな、ごく普通の閑静な住宅街だ。2丁目には本殿に犬の石像を祀った伊奴神社(いぬじんじゃ)があり、戌年には全国から多くの愛犬家が参拝に集まる。
1999年11月13日午前9時頃、仕事に出かける夫・悟さん(当時43歳)を見送った奈美子さんは、2歳の息子・航平くんを連れて午前11時10分に近所のクリニックに来院(午前9時半ごろに宅配業者が自宅を訪問したが、不在扱いとなっている)。その約40分後には部屋に戻ったとみられているが、午後0時半から午後2時の間に友人が3回も電話をかけているものの、応答はなかったという。
さらに、正午までアパートの駐車場で洗車をしていた住民が不審者らしき人物を目撃しておらず、別の部屋の住人が正午から午後1時くらいの間に「ドスン」という大きな物音と、階段を駆け下りる足音を聞いていることから、犯行時刻は“正午過ぎから午後1時”に絞られることになる。
大家が高羽さん宅を訪れたのは、午後2時ごろ。
警察の発表によれば、奈美子さんは洗面所で首に致命傷を負った後、台所まではって行き、そこで絶命。
事件から16年以上がたった現在も、まだ犯人の特定・逮捕には至っていない。しかし、現場に残された“別の女性”の血痕と足跡から、犯人像(※下記参照)はかなり絞り込まれている。奈美子さんと揉み合った際に凶器で傷を負ったのか、洗面所、そして廊下から玄関にかけて、血が滴るように点々と続いていたのだ。
もう1つ、現場には飲みかけの乳酸菌飲料(パック型)が残されていたのだが、これは訪問販売でしか入手できないもので、高羽家では購入する習慣がなかったという。付属のストローが使われておらず、穴を開けて飲まれたようだが、そのまま玄関先に吐き出されていたことから、犯人もかなり動揺していたことがうかがえる。もしかしたら、飲み物で航平くんの気を引いて連れ出すつもりだったのかもしれない。それならば、犯人は子どものいない女性で、奈美子さんをうらやんでの犯行という動機も考えられるが……。
事件後、悟さんは航平くんを連れて実家に移り住んだが、奈美子さんの命が奪われた部屋の家賃を今も支払い続けているという。「想い出の詰まった部屋だから」という気持ち以上に、「わずかな可能性でも、犯人の手がかりを残しておきたい」という執念が強いのだろう。事件から長い月日が刻まれたが、あの部屋の中だけは、今もまだ時間が止まったままだ。
(取材・文=神尾啓子)
<犯人像>
当時の年齢/40~50歳前後(現在は55~65歳前後)
身長/160cm前後
血液型/B型
靴のサイズ/24cm(かかとの部分が高い、韓国製の婦人靴)
髪形/肩までのロングヘア、パーマ
備考/左右どちらかの手にケガをしていた
<情報提供先>
愛知県警察 西警察署 刑事課
052-531-0110(内線332)