いまだ「逃げ恥ロス」や「真田丸ロス」から抜け出せない人も多いのではないだろうか?

 2016年はドラマの当たり年だった。年間を通してNHK大河『真田丸』が引っ張り、上半期は『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)や『ちかえもん』『トットてれび』(ともにNHK総合)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『重版出来!』(TBS系)などが、下半期は『逃げるは恥だが役に立つ』(同)、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』『黒い十人の女』(ともに日本テレビ系)などが大きな話題を呼んだ。



 そんな2016年のドラマを振り返ってみよう。

■NHKドラマの強さが顕著に
 
 これは近年続く傾向だが、今年は特にNHKのドラマの強さが際立った年だった。三谷幸喜の『真田丸』は1年間ダレることなく、高いクオリティを維持。最後まで、堺雅人演じる真田信繁側が史実を超えて勝ってしまうかも……と思わせてくれる盛り上がりだった。

 信繁の父・昌幸を演じた草刈正雄を筆頭に、秀吉役の小日向文世、三成役の山本耕史、家康役の内野聖陽、景勝役の遠藤憲一……と、実質的な主人公が変わっていき、迫田孝也、高木渉村上新悟新納慎也峯村リエといった、これまでテレビドラマでは派手な活躍のなかった実力派俳優の好演が目立った。

 1~3月クールでは藤本有紀脚本で松尾スズキ主演の『ちかえもん』が、さらに4~6月クールでは黒柳徹子の半生をドラマ化した『トットてれび』が放送された。
中でも黒柳を演じた満島ひかりの憑依っぷりは特筆すべきもので、文句なしで今年最も印象的だった主演女優だ。彼女の存在なしに、このドラマは成立し得なかっただろう。

 また、BSプレミアムのドラマも秀作ぞろい。岡田惠和脚本・峯田和伸主演の『奇跡の人』や安藤サクラ主演の『ママゴト』、そして森川葵主演の『プリンセスメゾン』と、心に染みる作品ばかり。独特な絵柄の原作をマンガチックな表情と仕草で再現した森川は、作品によってまったく違う印象になるのが驚かされる。

『富士ファミリー』『百合子さんの絵本』『キッドナップ・ツアー』など、単発ドラマも強かった。


■2016年の潮流は「童貞感」

 一方、今年のドラマの潮流としては、「童貞感」が挙げられる。ブームを巻き起こした『逃げ恥』で星野源が演じた「プロの独身」こと平匡の童貞感あふれる言動は、見る者を虜にした。

「『かわいい』は最強なんです。『カッコいい』の場合、カッコ悪いところを見ると幻滅するかもしれない。でも、『かわいい』の場合は何をしてもかわいい! 『かわいい』の前では服従、全面降伏なんです!」

と、ヒロインのみくり(新垣結衣)が言うように、抗おうにも抗いきれないかわいさにひれ伏すしかなかった(ガッキーもだけど)。

『逃げ恥』同様、大野智主演の『世界一難しい恋』(日本テレビ系)でも、童貞感の強い男性が恋愛に奮闘する姿が描かれた。
また、宮藤官九郎脚本『ゆとりですがなにか』(同)の松坂桃李や、『プリンセスメゾン』の高橋一生なども童貞感にあふれていた。ついでに言えば、今年3月まで放送されていたアニメ『おそ松さん』(テレビ東京系)もそうだ。

 その多くに共通するのが、基本的に(仕事が)“できる”男だということ。けれど、女性に対してだけはまるでダメで、そのギャップがかわいいのだ。それを象徴するのが、パジャマ姿。星野も大野も高橋も、みんなパジャマ姿がかわいかった。


■星野源と野木亜紀子の時代

 そんな星野は、これまで文化系やサブカル好きの中では確固たる支持を集めていたが、『逃げ恥』の大ヒットで完全にメジャーシーンのど真ん中に飛び出し、「浸透力がハンパない」その魅力を満天下に知らしめた。そういう意味では、2016年は「星野源の時代」が始まった年として記憶されるのではないか。

『逃げ恥』のほかにも、『真田丸』では徳川秀忠役を好演。特に最終回では、強烈な印象を与えた。

 ドラマだけではない。昨年末、『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たすと、今年は『逃げ恥』の主題歌「恋」が大ヒット。
『LIFE!』(NHK総合)にも出演し、内村光良らとコントを演じている。またラジオでも、絶大な強さを誇る『伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)の真裏で『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)を担当。radikoの利用者数で前者を上回るという快挙も果たした。

 その星野の魅力を『逃げ恥』で最大限生かし、引き出した脚本を書いた野木亜紀子は、今年最も充実した作り手のひとりだろう。

『重版出来!』は視聴率こそ振るわなかったが、ドラマファンの心に深く刻み込まれた名作だった。もともと彼女は、『主に泣いてます』(フジテレビ系)、『空飛ぶ広報室』(TBS系)、『掟上今日子の備忘録』(日本テレビ系)と、原作の良さを損なわず、それを巧みにアレンジした上で、キャストを魅力的に描くことに定評があった脚本家。
彼女が脚本だというだけで、原作ファンはとりあえず安心していいと思える、数少ない作家だ。

 原作ものが多く、キャストが優先される現在のテレビドラマ界の申し子ともいえる存在ではないだろうか。けれど、そろそろ彼女の完全オリジナル脚本の作品も見てみたい。間違いなく、それだけの実績は残してきたはず。来年には、それが実現していることを願いたい。

■2017年のドラマ界に求められるもの

 大ヒットした映画『君の名は。』もそうだが、今年、ドラマでは『トットてれび』や『ちかえもん』『プリンセスメゾン』など、単なる“主題歌”以上に音楽を効果的に使った作品が多かった。井上芳雄浦井健治山崎育三郎といったミュージカルの舞台で実績を積んだ俳優がテレビドラマにも進出。『勇者ヨシヒコと導かれし七人』(テレビ東京系)では『レ・ミゼラブル』『ライオンキング』『ベルサイユのばら』『美女と野獣』など、実際の出演者を使ってミュージカルをパロディ化。2.5次元ミュージカルの定着と相まって、テレビドラマにもミュージカル的な演出が増えていくかもしれない。

 また、Netflixで制作された『火花』をはじめ、テレビ以外でもハイクオリティなドラマが作られ始めた。『Thunderbolt Fantasy』(TOKYO MX)のような台湾の布袋劇を用いた人形劇も作られた。

 今年を象徴する『逃げ恥』はこれまでの“当たり前”を超えて「多様性」を肯定するドラマだったが、ドラマ界にも、より多様な表現や出演者、作られ方が求められていくだろう。
(文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/)