「パソコン通信で、彼女ができる!!」

 ああ、これを読んでパソコン通信を始めたヤツもいたんだろうなあ~。そんな感慨に耽ってしまう記事が掲載されているのが「スコラ」1989年5月25日号。



 この記事読んでいるだけで、ホントにパソコン通信を始めたら彼女ができるんじゃないかというほどにテンションが高い。なにしろパソコン通信を「電脳空間に広がる一大ナンパワールド」と煽り、こんなふうに誘惑する。

「オタク」「暗い」といわれる代表的人種がパソコンマニアだったのはもう過去のこと。

 ちょっと待て、と思った。ナンパの一歩先であるセックステクニックやらを掲載しまくっていた「スコラ」を、当時パソコン通信をやるような人々が読んでいたのだろうか。少し考えて腑に落ちた。
この記事の対象者は「オタク」でも「ネクラ」でもないナンパ大好きな男子たち。そんなヤツらの新たなナンパ目的の社交場としてパソコン通信を提唱しているというスタイルだったというわけだ。

 もはや、あらゆる機器がネットワークで接続された21世紀。もう誰もがスマホを用いてインターネットに接続するのは頭で考えなくてもできることになった。けれども、この時代は隔世の感がある。なにしろ電子メールひとつとっても、概念を理解させるのが大変だ。


 なので、会話形式での解説で次のように文章が綴られる。

「早速メールを送ってみよう」
「メールっていうのは?」
「ネットワークの中の郵便だ。特定の個人に送るもので、絶対他人には見られることがない」
「そっか。じゃあ『はじめまして。今なにやってるの? 今度ハチ公の前で待ち合わせしよう』と」
「アホか! そんなこと書いたって絶対だめだ。テレクラと勘違いしないように」

<中略>

「結構まだるっこしいんですね」

 当時は声掛けナンパの全盛期である。
ナンパの利点は、学校や職場など、いつも身を置いているコミュニティと違ってしがらみがないというのが、まずひとつ。そして、即座にイエス・ノーの結果が出るというのがもうひとつ。テレクラも、その延長で隆盛したという側面があった。なので、ナンパに長けた者が新たな狩りの場所として開拓しようとすれば、パソコン通信のまだるっこしさに戸惑ったのではなかろうか。

■ナンパが苦手なボーイにこそ魅力的だったパソコン通信

 だから、パソコン通信でナンパを試みたのは、日常からナンパを繰り広げている男子よりも、もう一段下の気弱な男子だったのではないかとも推測できる。というのも、この記事よりも少し前「ホットドッグプレス」1989年2月25日号でも、やっぱりパソコン通信で恋人をゲットする方法が指南されているのである。
「ホットドッグプレス」といえば、言わずと知れた恋愛マニュアル雑誌の王道。現代的な視点では、決してうまくいくはずもないナンパテクを掲載しまくっていた同誌では、恋人づくりにおけるパソコン通信の優位性をとにかく煽る。

 お互いにパソコン通信の仲間意識があるから、意気投合するのは素早い。かつまた、パソコン通信では顔が見えないから絶対に“今度あいましょう”なんて話に発展するはず。
<中略>
 実際に、パソコン通信で知り合った2人が結婚しちゃったって新聞記事がこの間出てました。

 そんな夢にあふれるパソコン通信。
でも、人間とは愚かなもの。現代と変わらず、コミュニティの中ではさまざまな愛憎のもつれが存在していたのだろう。

■アマチュア無線では男女交際のもつれで殺人事件も

 そこでふと思い出して調べてみたのが、80年代にあったアマチュア無線で出会った男女が別れ話になった結果の殺人事件。1987年12月に起こったこの事件。調べて見ると、いろいろオカシイ。

 被害者は名古屋在住の当時32歳のピアノ教師の女性。
犯人は20歳の専門学校生。この年の5月アマチュア無線で知り合った2人は交際を開始。人妻だったピアノ教師は8月になって夫と別居していたというから、かなりの熱の入れようだったのだろう。ところが、秋になると女性のほうが一気に冷めモードに。12月に入りクリスマスの夜に徹夜で話し合ったが女性の方が「ほかにいい人がいる」と言い出したため、絞殺。東名高速を飛ばして都内に向かい、結局、八王子市に遺体を遺棄したというもの。

 これだけなら、ちょっと複雑な男女間の愛憎劇なのだが「中日新聞」1987年12月31日付には、こんな一文が。

捜査本部は、別居中の夫からアマチュア無線仲間の親しい男性がいたとの情報を得、交際していた三人の男性の追跡調査を開始。

 え? これはオタサーの姫の殺人事件? いやはや、オタサーの姫は、この時代から存在していたということか。

 ちなみにこの記事、被害者の弟のコメントも掲載されているのだが……

「姉にどんな交遊関係があったのか知りませんでした。犯人逮捕と言われても犯人がどんな男だったのか分からず複雑な気持ちです」と沈痛な表情で話していた。

 事件にまでは至らずとも、誰も幸せにならない男女交際は、いつの時代も存在していたということなのか。
(文=昼間たかし)