「いつも家族を支えてくれる妻、ありがとう。感謝してるよ」といった、妻への感謝をなぜかSNS投稿する夫を見ると、こう思わないだろうか。

「本人に言え」と。家族や、または恋人や友人に恵まれて幸せ/仕事が充実/リッチな生活をしている……といった、言わなくてもいいことをあえて投稿するは、なぜ、うかつに、あえて投稿してしまうのか? 前回に引き続き(インタビュー[1])、『自分のすごさを匂わせてくる人』(サンマーク出版)著者であり心理学博士の榎本博明氏に聞いた。

■「承認欲求&自己愛」でおそろかにされる        「周りの人の気持ち」

――「ウザい匂わせ投稿」でよく見かけるのが、「配偶者への感謝SNS投稿」です。妻から夫に対する“ありがとう”だけでなく、夫から妻への感謝の言葉も最近見ます。「SNSに書かずに本人に言え」と思うのですが、こういう投稿をする人の背景には何があるのでしょうか。

榎本博明氏(以下、榎本) 承認欲求と自己愛ですね。

自己愛は誰にでもあるものですが、それに溺れてしまっているのです。

 例えば「妻への感謝をSNS投稿する夫」の場合、男性の理想像はかつてのような「男らしい男、強い男」でなく「優しい男」になりつつありますよね。それをふまえ「自分はこんな風に家族に優しくしている」と人に見せつけて自己愛を満たしたい。

――時代の男性像の変遷はしっかり押さえる客観性があるわりに、読者がその投稿をどう思うかについては無自覚なんですね。

榎本 はい。そんなものはSNSで他人に見せつけるものではないし、相手にだけ分かればいいのです。
相手が外に自慢しているのをどう思っているのか、というのを考えると、なんでそんなことができるのか不思議ですよね。

――投稿者は「SNSの読者」だけでなく、勝手に投稿のネタにした「自分の配偶者」の気持ちにも想像力が働かないとなると怖いですね。

榎本 アピールすればするほど自分が小さい人間であることがばれてしまう。自慢せざるを得ないというのは、それだけ自分に自信がないのでしょう。投稿した自分に酔っている。恥ずかしい人だと周囲から思われていることに想像力が働かない。


 学生に聞いてみても、「こういう匂わせ投稿をする人は異質の人間だ」と言っていましたね。自慢したら嫌がられる、というのは普通の感受性があればわかるはずです。

 それでも自慢が止められない人は、どこかが壊れている人です。

■匂わせな人ほど、SNSが大好き!

――匂わせやすさと性別・世代は関係ないのでしょうか?

榎本 関係ないですね。僕の同世代にもいますよ。性別や年齢によって変わる、というよりも「自己モニタリング」ができていない人ほど匂わせますね。

「自分が発信したことにどんな反応が返ってくるか見て、表現を調整する」ことができないのです。

 日常生活でモニタリングができない人は、ネット上でもモニタリングができません。

――いわゆる、場の空気が読めない人ですね。

榎本 はい。周りの人がぎょっとするようなこと、その話題はその場にいるAさんにとって傷つくような内容だから触れてはいけない、ということも口にしてしまう。自分の発言で場が凍っていることにも気が付かない。


 そういう人ほどSNSが好きなんです。SNSは一方的ですから。

■匂わせに閉口する人は「文句をつける」のでなく「いなくなる」

――SNSで匂わせを見るのに慣れてきて、さらに、なぜか匂わせに「いいね!」がついている状況を見ると、「むしろこれが普通なのか? イラっときているこっちの心が狭いのでは?」と思えてくるんですよね。

榎本 匂わせる人は匂わせる人同士でやり取りしますからね。そういう人同士で「いいね!」しあったり、義務感でいいねする人もいますから。不快に思う人は反応しなくなります。

匂わせに文句をつける人はいないでしょう?

――確かに。Twitterならともかく、本人との紐づけの強いFacebookではないでしょうね。

榎本 リアルの場で、ひどい匂わせでその場にいる誰かを傷つけるような発言をした場合、場が凍り付いたり、たしなめる人や、話を逸らす人も出てくるもしれません。しかしSNSでそれをしたら、引いた人は、こんな人にはもう関わりたくないとそのまま離れていきます。ですので当の本人は勘違いしたまま、気づけないままなんです。

――人が引いて、離れているのに気が付かない、というのはネットならではの怖さですね。

* * *

「SNSは一方的ですから」という榎本氏の発言は、思わず唸ってしまった。考えてみればSNSは双方向、と言われがちだが対面のコミュニケーションとはまったく別物だ。SNSは一方的に始め、終わらせられるし、誰に対しての発言かはぼやけがちだし、対面ではとても言えないような発言も見かける。

 リアルのコミュニケーションの方がよほど難しく面倒で、それゆえネットのコミュニケーションに流れる気持ちはよくわかるが、そこに頼ると衰えていくものもあるのだろう。次回も引き続き榎本氏に、アナウンサーの伊藤綾子氏をはじめとした、「交際匂わせ炎上」についても聞く。

(文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])

●榎本 博明(えのもと・ひろあき)氏
1955年、東京都生まれ。心理学博士。MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『「上から目線」の構造』『薄っぺらいのに自信満々な人』(ともに日本経済新聞出版社)、『カイシャの3バカ』(朝日新聞出版)などがある。

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