フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日/AbemaTV

 5月12日の『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)。ホッとした。

審査員の漢 a.k.a. GAMIが逮捕されてから最初のダンジョンが、休止にならず無事に放送されたのだ。

 今回は、「審査員長いとうせいこうが選ぶフリダンの歴史を変えたBEST BOUT 8選」である。こうやって、昔のバトルをあらためてちゃんと見られるのはうれしい。懐かしさに泣ける人もいるだろうし、ダンジョン歴の浅い人にはありがたい企画でもある。気づけば、この番組も始まってもう5年なのだ。

旗を持ち、山車に乗って登場するT-Pablow

 せいこうはまず、栄えある番組のオープニングマッチとなった一戦T-Pablow(てぃー・ぱぶろ) vs Dragon One(どらごん・わん)を挙げた。

「このレベルでやるのなら絶対伝わるなあと、審査員としても思った」(せいこう)

 確かに、いま見てもレベルはクソ高い。そして、若い! 何しろ、2015年9月のバトルなのだ。あと、初期の狭い会場の雰囲気がすごくいい。収録が新木場ageHaに移ってから、番組の雰囲気は少し変わったように思う。

 さらに懐かしいのは、旗を持って山車に乗って現れる登場シーンだ。とにかく、ダサかった。

せいこう「あれはZeebraの発案なの?」

Zeebra「いや、あれ俺じゃないすよ!」

せいこう「怪しいんだよ!(笑)」

サ上「ちょっと、責任逃れしてるじゃないですか、それ」

 責任を押し付け合うやりとりに笑ってしまうが、真相はこうらしい。

「“MCバトルを民放でやりましょう”となったとき、どのくらいのさじ加減でバラエティにはめていくべきなのか。そこで(スタッフからの提案に対し)“それはNG”とつまらないことばかり言ってたら“こいつら、何もチャレンジしてくれない奴らだな”ってなっちゃうじゃないですか。それはまずいなと思って。チャレンジするのが俺じゃなくて、すごい申し訳ないんだけど(笑)」(Zeebra)

 つまり、山車の登場はZeebraもモンスターも審査員も、全員違和感を持っていたということ。しかし、T-Pablowが旗を持ち山車に乗って登場するなんて、今だったらとても考えられない。

 せいこうが2つ目に挙げたバトルは、1st seasonのRec2で行われた般若(はんにゃ)vs焚巻(たくまき)。当然のランクインである。このバトルを動画サイトで見て、フリースタイルのファンになった人も多いはずだ。

 ぶっちゃけ言ってしまうと、般若にラップのうまさを求めている人はあまりいないと思う。彼のヤバさはバイブスにある。オーディエンスがフリースタイルバトルに欲するヒリヒリ感を、般若は限界点まで作り上げる。

彼の狂気が会場を巻き込むのだ。

 また、焚巻がラスボスへ到達する前に出場したチャレンジャー・CHICO CARLITO(ちこ・かりーと)も印象深かった。モンスターを3人抜きしたCHICOを迎え撃つべく初登場したのがR-指定(あーる・してい)だ。R-指定 vs CHICO CARLITOは『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のラップ大好き芸人企画でも紹介された名勝負。R-指定のピリついた表情がなんとも魅力的だし、「こいつはレベルが違う」と視聴者に一瞬でわからせた、Rの名刺代わりの一戦でもあった。振り返ると、1st seasonのRec2はとりわけ神がかっていた印象。

せいこうが3つ目に挙げたバトルは、2nd seasonのRec1で行われた般若 vs 崇勲(すうくん)。般若2度目の出撃となった一戦だ。般若の「刺身 醤油」というインパクト大のカオスなライムも印象深いが、崇勲からしたら惜しいバトルだった。攻勢だったのに、般若を前に緊張から言葉が詰まってしまい、あとちょっとでダンジョン攻略ならず! あそこでかまなければ、崇勲は恐らくダンジョンを制覇していたと思う。

 言い換えると、そこが般若の恐ろしさ。般若のバイブスにチャレンジャーが巻き込まれ、熱くなり、スタイルを崩して抜き身でぶつからざるを得なくなる。

あと、このバトルの直後に般若が突如としてKREVA(くれば)へ宣戦布告したのも大ニュースだった。

 ちなみに、この日流れたライブ映像は崇勲の未公開パフォーマンス。メチャメチャいい声だし、メチャメチャいい曲。崇勲には言葉にできない魅力がある。

 いとうせいこうが選ぶBEST BOUT 8選も、残りは5つ。続きは次回ということになるが、どんなバトルが挙がるのだろう? 予想は難しいが、これは絶対に外せないという名試合が1つだけある。それは、漢 a.k.a. GAMI vs 晋平太。いくらなんでも、これを避けては通れない。それは無理がありすぎる。番組史上最高のバトルだ。漢絡みで言うと、輪入道との一戦もランクインの可能性は高い。やはり、漢抜きでダンジョンを語るのは無理があるだろう。

 前回の予告映像では誰よりも映っていた漢。KEN THE 390の横にいるはずの彼が、今回の放送ではきれいにうまくカットされていた。悲しくはあるが、この短期間でよく編集した。スタッフの方々には、お疲れさまの気持ちでいっぱいだ。これから番組に出られないだけでなく、過去の出演回もお蔵にしてしまった漢。このダメージは大きい。

 でも、過去の名バトルを見て、『フリースタイルダンジョン』にはつくづく続いてほしいと思った。単なる総集編で済まさず、当時の裏話を交えて振り返る今回の企画はすごく良かった。早く後編が見たいし、なんなら「Zeebra が選ぶBEST BOUT」も見てみたい。

 さて、番組はこの先どうなるのだろう? 恐らく今年いっぱい、観客を募ったageHaでの収録は難しいはず。もしかしたら、リモートでバトルが行われる可能性も出てくる? いろいろな障壁はあるが、番組存続のために、どうにか踏ん張ってもらいたい。