「ツギクル芸人グランプリ2022」フジテレビビュー より

 過去、グランプリと名の付くもののほとんどを全ネタレビューしてきた僕だが、今回また新たに全ネタレビューをすべきグランプリが現れた。それは次世代芸人No1を決める「ツギクル芸人グランプリ2022」だ。

この大会はピン芸、コント、漫才などジャンルを問わず、今後の芸能界でスターとなり活躍が期待される芸人を発掘する為に、日本音楽事業者協会とフジテレビが開催するお笑いコンテストである。

 過去2回放送されており、3回目の開催にして初の生放送で「ツギクル芸人グランプリ」の決勝大会が行われた。過去の優勝者は初代「ザ・マミィ」(人力舎)2代目「金の国」(ワタナベエンターテインメント)とどちらも芸能界で活躍しており、”優勝”イコール芸能界での活躍が約束されていると言っても過言ではない。

 ところでこの大会の、参加条件は少し特殊であり、誰でも参加できるわけではない。

 日本音楽事業者協会に所属している各事務所が「地上波のプライムタイムに番組レギュラーを持っていない芸人」を対象に芸人を推薦し、予選を勝ち抜いた芸人で決勝大会が行われる。今回は厳選された72組の中から厳しい予選を勝ち抜いた予選順位15組での決勝戦となった。

 ちなみにこのルールの意味は、テレビ業界において『1日のうちで視聴率が最も高くなる時間帯』、すなわち毎日19時から21時のゴールデンタイムに22時から23時を加えた19時から23時に編成されている番組にレギュラーで出演していないことを指している。確かにその時間帯にレギュラー番組を持っている芸人ならば「スデニキテイル芸人」となり「ツギクル芸人」ではないといったところだろう。

 司会は爆笑問題のお2人。審査員長渡辺正行さんを筆頭に、審査員にはますだおかだの増田英彦さん、井上咲楽さん、放送作家の元祖爆笑王、さらには民放5局のプロデューサーやディレクターが名を連ね、優勝者には賞金100万円と各局への番組出演権も獲得することが出来るという何とも豪華な大会だ。

大会形式は昨今主流となっている5組1グループで3グループファーストステージを行い、勝ち上がった3組でファイナルステージを争うというもの。とてもオーソドックスなシステムである。

 さてそろそろ本題に入ろう。今回はこの「ツギクル芸人グランプリ2022」に参加した芸人たちのネタを元芸人目線で分析し、全ネタレビューしていく。今回は総勢15組もいるので少し足早なレビューになってしまうかもしれないがご了承いただきたい。

 前回も決勝へ進出し、180キロという体型を活かし大きなインパクトを残したコンビ。太っている大鶴肥満さんがパンが大好きだからパン屋さんへ来るお客さんをやるというネタ。基本的にツッコミの檜原洋平さんがツッコミでネタを進行していく形なのだが、ツッコミの言葉数が多いため、その間ボケの大鶴さんが、ただ「はいはいはい」と頷いているだけで何もしていないのが気になった。

 せっかくツッコミが多く喋っているのだから、その間に大鶴さんが勝手にボケていっても良かったのではないだろうか。台本通りに進んでいるのが見えてしまった為、ボケも台本に書かれているように感じてしまうので、あまり漫才特有のアドリブ感が出ていなかったと思う。

 さらにせっかく180キロという常人離れした体型なのに、100キロの人がやっても成立してしまうボケばかりだった気がする。もっと180キロならではのぶっ飛んだボケがあっても良かった。

2組目「TCクラクション」

 結成3年目ながら決勝へ進出した実力派。別の大会で見たときに変わった形の漫才で面白いと思った記憶が残っている。今回は漫才では無くコントだった。

 ネタはバイトの休憩室での話。漫才で見たときもそうだったが、ボケの古家曇天さんにツッコミの坂本NO.1さんが振り回されて勝手に、テンションが沸騰していくという形。今回のコントはボケが短時間で振られたり付き合ったりするというもので、そこまでボケらしく無かった。それに対しツッコミは漫才同様テンションが上がっていくので、そこに違和感を感じた。

 漫才だと違和感を感じないものが、なぜコントだと違和感を感じるのか? それは起こっている事象が変なだけで、古家さんは普通の人なのだ。ボケてもいない人に対して突っ込むことで、まるで坂本さんが自分でボケの部分を探し、飛躍させて突っ込んでいるように見えてしまう。

TCクラクションの漫才はボケはボケに見え、ツッコミは面白いツッコミに見えるので笑いが倍増するイメージがある。この微妙な形の違いに気づければもっと笑いが起こせたかもしれない。

3組目「ストレッチーズ」

 彼らはこの大会を制したチャンピオンである。

 ストレッチーズは宣材写真にサンパチマイク(漫才のときに使用するマイクのこと)を入れ込むほど漫才愛が強いらしい。コンビを組んでから漫才しかやっておらず“誰よりもネタをやっていること”に関してはどの、コンビにも負けないと自負している姿がとても好感が持てる。ネタを年間40~50本作っており、芸歴8年で400本くらいネタがある中で最も自信があるネタを披露するということを語ったVTR。これだけワクワクする煽りVTRは期待と共にハードルも上げてしまう。

果たしてこのハードルを越えることが出来るのか――?

 ファーストステージのネタは怒っているか怒っていないかをひたすら確認していくというネタ。漫才師らしく「怒っているかどうか」というひとつの議題で徐々に笑いを大きくしていき、後半ボケの福島さんのふざけた感じと、ツッコミの高木さんのテンションマックスの突っ込み。声量の大きさにより客席を巻き込みそして笑いを増幅させていく。漫才の醍醐味が見られたネタであった。面白かった。

 そしてファイナルステーでジはボケの福島敏貴さんがなんでも水掛け論にしてしまうというネタ。ファーストステージと同じようなシステムで、ツッコミの高木貫太さんが何を話しても「水掛け論だからやめよう」という言葉で話を中断されてしまい、それでイライラが募り爆発していく。ネタ自体は面白く、途中で客イジリを入れて笑いをとっていたのは漫才ならではであったが、ファーストステージで同じようなネタを見てしまったが故にどうしても、笑いが少なくなってしまった。漫才というのはひとつの形を見つけるまでにかなり時間がかかる。ストレッチーズもこの形を見つけるまでに試行錯誤したことだろう。なので無理難題なのは重々承知の上で、出来ることならファーストステージとは違うシステムの漫才が見たかった。

 昨年は決勝へ進出するも敗退。その悔しさにより新ネタを作る数も増えた中で、その中から一番勝てるネタを持ってきたとのこと。一番面白いではなく、一番勝てるネタというところが一体何を意味するのか。

 ネタは転校してきたばかりの生徒が馴染めていないのを、先生が帰りの会で言ってしまうというもの。このネタは先生役の依藤たかゆきさんが通常のボケをし、生徒役の古川彰悟さんが、ツッコミをしながらリアクションでボケる、という二重ボケの形で笑いを起こしていく形。

 ひとつ勿体なかったのはコントのストーリーに緩急がなかったところだ。2人とも芝居が上手なので前半は、デリカシーの無い先生に振り回される生徒、後半は生徒が転校してきた理由込みで感動と思いきや、やはり先生はデリカシーがなく暴走していくなどの形にすればストーリーに緩急ができ、さらにストーリー自体に厚みが出るので良かったように思う。演技の上手さとセリフの言い方は抜群なので、普通のお笑いではなく、もっと芝居に寄った笑いを見てみたい。

Aブロック最後の5組目「ゼンモンキー」

 結成3年目。2年連続決勝進出のコント界のホープと言われている。3人組で見た目のキャラクターがそれぞれ違うのは、とても良い。

 ネタは彼女とデートをしていたら実はその彼女は指名手配犯だったというもの。3人の中で一番キャラクターが強く、オタクのような荻野将太朗さんがボケとツッコミを担っており、ほかの2人はストーリーを進行させる前振りのような役割になっていたので、とてもバランスが悪く感じてしまった。ぶっちゃけ3人組である利点は活かされていなかったように思う。

 3人ともキャラクターがバラバラで荻野さんはオタクに見え、ヤザキさんは悪そうに、そしてむらまつさんは一番普通に見えるので、どうせなら付き合っている彼女が指名手配犯ではなく、友達のヤザキさんが指名手配犯で十分成立したのではないかと思う。そうすれば最初は何とも思わなかったヤザキさんの言動が、指名手配犯と聞いてからは怖く聞こえるなど、ボケが広がった気がする。何とも勿体ない役の割り当てだったのではないだろうか。

続いてBブロック1組目「Gパンパンダ」

 Bブロックを勝ち上がりファイナルステージへと進出したのがこのコンビ。

 3年前の第一回大会で苦渋を飲んだ彼ら。それからとにかく多く舞台に上がり続け「確実に生まれ変わった」と断言するその姿は、自信に満ち満ちていた。果たしてどんなネタを見せてくれるのだろうか。ネタはミステリー映画の制作発表記者会見で主演が、犯人役は自分だとついバラしてしまったというもの。ネタはとてもベタな展開で、テンパってしまった主演や監督が次々とトリックをバラしてしまい取り返しのつかない状況になっていく。コントの内容としてはあまり展開もなく、想像できるものだった。

 主演を演じた一平さんが少し生意気そうな顔をしているので、それを活かし最初は悪びれない様子で監督の星野光樹さんが慌てふためき、実は一平さんも後悔していたというほうがネタの展開は生まれたと思う。

 そしてファイナルステージのネタは、スーパーの試食コーナーで激ウマなソーセージに巡り合ってしまった大学生の苦悩といったところだろうか。こちらも展開としてはベタなもので、今まで食べたことがないくらい美味しいけど、大学生からしたら値段が高くて手が出ないので悩んでいく。

 ファーストステージでも言えることだがこちらもどうしても展開が読めてしまい、もっと裏切りが欲しかった。さらにファイナルステージに関しては、ツッコミの星野さんのキャラクターが定まっておらず、彼でなくてもいいキャラだった。特にキャラクターを付けようと思っていないなら、もっとリアルな人物設定にし、終始騒がないでほしいというキャラで良かったのではないだろうか。後半騒ぐのをOKにしたのも感情の流れが見えないので、変な芝居に見えてしまった。ボケに集中してネタを作るのではなくツッコミのバランスを考えるのも必要だと思わせられた。

 年間400ステージをこなす舞台至上主義コンビ。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で開催された「不仲芸人対抗! スピード解散選手権」で圧倒的早さで解散を決めたコンビとしてご存じの方もいると思うが、ネタまで見たという人はそう多くないと思う。そんな竹内ズはどんなネタを見せてくれるのだろうか。

 ネタは卒業式で卒業させたくない校長先生と卒業生とのやりとり。前半は卒業証書を引っ張り合いながら、後半は歌うことを阻止しながらという終始ドタバタコントだった。正直なところ印象はそれだけ。動きで笑わせようとした部分はあったが、動きで笑わせるというのはかなり難しい。理由としては動きに特化して笑わせる芸人がいるからだ。霜降り明星のせいやさんや、最近だと錦鯉の長谷川まさのりさんなどがその部類に入る。そういった芸人と比べるとどうしても動きが弱く、それだけでは笑いに繋がらない。

 さらにネタ中のコメントも直接笑いに繋がってインパクトが残るようなものは少なく、勢いはとても良かったのだが、逆に勢いだけしかなかったように見えてしまった。どこかで見たような笑いが多かったので、もっとお客さんに伝わるかどうかわからないが“これぞ竹内ズ”という笑いが見たかった。それができる数少ない芸人だと僕は思う。

3組目「キュウ」

 2年連続決勝進出したスロー漫才師。その異名の通り、ゆったりと歩き時間をかけて登場。ネタ時間が3分間という短い時間なのだが、彼らはひとつめの笑いが起きるまでに約20秒から30秒くらいかけたのではないだろうか。僕が出場者ならできるだけ早く笑いを起こしたくなってしまう。

 ネタ自体はカレーのことをカリーといい、カレーのルーをレーと言ってみたり、その後も言葉を少しずらして次々に発言していくというものなのだが、この手のネタはお客さんが頭の中で「正しい言葉は何だっけ?」と考えてしまい、すぐに笑いに繋がらないことが多い。案の定、笑いが少し遅れてやってきたり、考えている間に次のボケに行ってしまい、笑いが少なくなってしまうポイントが多々あった。たった3分間しかネタ時間が無い場合はやはり早めに笑いを取り、そのまま少しずつギアを上げていき、最後にマックスまで笑いを持っていくというのが常套手段となる。

 キュウのような雰囲気で笑わせる芸人にとって、この大会のネタ時間とシステムは少し分が悪かったのではないだろうか。

4組目「パンプキンポテトフライ」

 昨年行われた「M-1グランプリ 2021」の準々決勝でネタを見たときに、エンジンがかかるのが遅かったが、結果としてとても面白かったいう印象が残っている。今回はネタが始まり早速、笑いを起こしていたので掴みとしては上々だろう。

 ネタ自体は”ねづっちです”がうまくできないというネタだった。これは個人の好みが入ってしまうのだが、誰かのネタを使ったネタが僕はあまり好きではない。それはどことなく元ネタをバカにしているように扱うことが多いからだ。もちろんやってる本人たちはそんなこと考えていないと思うが”誰も知らない”とか”気にして見たことない”という発言などがあって、どことなく見下しているように見えてしまった。気にしない人は気にしないのだろうが、僕としてはネタへの集中力が途切れてしまう気がする。

 お笑いのネタは経験を重ねるほど誰も傷つけないものへと進化していく。誰かを傷つけたり嫌な思いをするネタをやっている芸人は確実に消えていく。芸歴10年近い彼らなら、その辺りの微妙なラインがわかっていても良い気がするが、そういう意味でこのネタは賞レース向きのネタでは無かったと思う。キャラクターやセンスは面白いだけに残念だ。

 最近テレビでも見るようになったわらふぢなるお。2018年のキングオブコント準優勝という実績もあり、他のメンバーに比べると経験値が多いので優勝に近いのではないだろうか。

 今回のネタは“入っていなかったスプーンを届けにきた配達員が嫌味臭い”というもの。コントの設定もわかりやすく、セリフや流れも悪くは無かったが、お客さんにはあまり伝わらなかったようで、笑いが少なく感じた。

 こういった賞レースの場合、少し早めのテンポと声量がキーポイントになってくる。このコントは比較的ゆったりと流れ、セリフもひとつひとつ聞かせる為にわざと間をあけて話しているので、どうしてもまったり見えてしまう。ツッコミが終始イライラしているので、最初からもっとイライラをぶつけても良かったかも。最初のボケへのアプローチが、突っ込まずに普通の会話としてしまったのが敗因かもしれない。これだけ失礼なボケならば、すでに何時間も待っているとか電話での対応が悪いなどの理由をつけて、イライラマックスからスタートしても良かった。スタート時の声量でお客さんを巻き込まないとコントは厳しいものがある。

Cブロック1組目は「ネギゴリラ」

 Cブロックからファイナルステージへ進出したのはこのコンビ。いかにも体を張ったネタをやりそうな名前なのだがその実、テンポの良い掛け合いを駆使する技巧派コント職人という2人。煽りVTRでの印象は「とにかく若そう」。その若さから表情の作り方も喋り方も、芸人というよりは一般の方に見えた。これがネタになった瞬間にどう、変わるのか楽しみである。

 ネタは新しく赴任してきたクラスに”裏回し”をする生徒がいるというもの。裏回しというフレーズで笑いが起きていたので、業界用語が一般の方にも浸透してきたことがうかがえる。びっくりしたのは2人とも芝居が上手い。特にツッコミの細野 祐作さんのほうは無個性であり、どんな役になっても違和感が無さそうなのでツッコミとしての資質は抜群だ。

 対してボケの酒井駿さんはその風貌や喋り方からいじられキャラのように見える。だがボケの内容はどちらかというとシュール。あまり酒井さんに似合っているようには思えないボケで、その似合っていないというのをうまくコントロールすることも出来ていないので多少、違和感を感じてしまう。

 ファイナルステージのネタは、ただのとんかつ屋さんだと思いきや、実は武器商人で、ブローカーとの合言葉が異常に長いというネタ。これもやはりシュール。しかも合言葉に出てくるフレーズが下手すればカッコいいと思われかねないものなので、もしかしたら酒井さんはあまり自己プロデュースが出来ていないのかもしれない。

 このようなシュールなネタを違和感なくやる場合、ファーストステージのネタなら最初はキャラに見合ったボケ(天然ボケ?)を入れておいて、中盤くらいから実は、わざとボケていて気が付いたら裏回しされていたとか、ファイナルステージなら前半ハードボイルドに決め、わざとカッコよく見せておいて、後半滑舌が悪くて何を言ってるかわからないとか、一瞬メモを見るとかベタな笑いを入れた方が展開も広がり見やすくなるはずだ。

 ネタ自体の面白さはかなりハイレベルなので、もう少し自分たちを客観的に見る力を養えばチャンピオンになるのは間違いない。

 芸歴16年目の決勝最年長コンビであり、さらに今大会唯一の男女コンビでもあるハナイチゴ。他のコンビには無い圧倒的な声量が武器だと豪語しており、正直ウケでは負けない自信があるようだった。

 お笑いにおいて声量は結構重要で、小さいと笑いに繋がらず、大きすぎてもお客さんが引いてしまう。ちょうど良い加減で出せれば確かに圧倒的な武器になる。大声好きの僕としてはいやが上にも期待が高まった。

 ネタはボケの関谷友美さんがスナックのママになりたいというもの。基本的にママと客の会話の部分は普通の音量で話をし、相手にツッコミを入れたいところは心の声として大声で突っ込むといったシステム。とてもわかりやすく見やすいネタなのだが、実はこのシステムは笑いが盛り上がりづらい。

 理由としては、会話とツッコミが交互に繰り返されるということは会話が途切れ途切れになるということ。そうなるとせっかく上がったお客さんの笑いボルテージも、会話が途切れたタイミングでリセットされてしまうから笑いが盛り上がっていかないのだ。それとこのネタに関してなのだが、ツッコミに力を入れるあまり正直ボケが弱いように感じた。

 お笑いの基本に立ち返り、ボケの強化をしてそれに対して今のように突っ込んだ方が笑いが大きくなるのではないだろうか。

3組目「森本サイダー」

 今大会唯一ピン芸人。R-1グランプリ2021で決勝へ進出した記憶が新しい。独特な癖のあるネタが吉と出るか凶と出るか――。

 ネタの内容は黒魔術の本を手に入れた青年が己の憎しみが深ければ深いほど威力を増す暗黒爆弾ダークマターを召喚し、自分をバカにした奴らに復讐していくという中二病全開ネタ。

 僕は森本さんが登場して5秒で心を鷲掴みにされた。ここまでお客さんに媚びず、自分のやりたいことを貫くネタは見ていて気持ちが良い。何度か森本さんのネタは見たことがあるが、今までで1番好きなネタだ。

 もちろん自己中心的なネタにしないように普通っぽいボケも入れているのだが、そんな所より自己中心的なボケのほうが訳がわからなくて面白い。ただこのネタは老若男女、誰にでも通じるものでは無い。本来お笑いは頭を使って見なくても笑えるものであるべきなのだが、このネタに関して、いや森本サイダーに関してはお客さんが森本サイダーに寄っていき、面白い部分を採掘する必要がある。

 それなのである程度頭を使ってお笑いを見る、一定の層にしか笑えないのが残念で仕方がない。今のままだと賞レースで優勝するのは厳しいと思うが、このまま我が道を突っ走っていってほしいと思う。

4組目「さんだる」

 2人共東京生まれ東京育ちで、同じ事務所のさまぁ~ずさんやバナナマンさんの血を受け継いでいる東京コント師。この系譜を断ち切らず受け継いでいくことが出来るのだろうか。

 ネタはバイト終わりの休憩室。若者とおばさんの会話。2人の見た目から、キャラ押しのコントかなぁと思っていたのだが、2人とも芝居が抜群に上手い。特にツッコミの宗洸志さんは、別格に上手い。何組か芝居が上手いと書いたが、それはコント芝居の事で、この宗さんに関しては普通のお芝居もかなり上手いと思う。

 コント芝居の場合、普通のセリフもほんの少しだけ過剰に演じるのだが、宗さんはツッコミ以外は誇張せず、実際のおばさんのように穏やかで女性的な喋り方をする。もちろんこれに加えてコント芝居も出来ている。芝居が上手いコンビというのはゆっくり時間をかけて空気をつくり、じっくりとキャラクターをわからせていき笑いを起こす。今大会の持ち時間は3分間。さすがに3分間では少し強引な展開にならざるを得なかったようで、元来の面白さが全部伝わっていないような気がした。あと2分あれば少しは違ったかもしれない。

 もともと別のコンビを組んでいたが、鳴かず飛ばずで解散。そして2人が組んでみたところ飄々とした漫才が評価され、結成1年で決勝進出したという。

 ネタは映画館にいる迷惑な客。山内仁平さんのボケのクオリティは高いし、ツッコミの永見諒太さんに関しては間もセリフも表情も先輩芸人に引けを取らないほど基本ベースは高い。

 ならなぜ飄々漫才と言われてしまうのか。それはひとえに永見さんの声だ。たぶん普通の人ならもっと聞こえるであろう音量で喋っているのだが、声質によりどうしても聞き取りづらく、敢えてテンションを抑え目でやっているように見えてしまうのである。

 僕も同じように声が通らないタイプだったので、他の芸人と同じ声量で出したとしてもテンションが低く、やる気すらないように見えてしまう。ただ良く見て欲しい。永見さんは他のツッコミの人より、何倍も楽しそうに突っ込んでいた。しかも他の芸人はほとんどやっていなかったツッコミテクニック『誘い笑い』もきちんと使っていのだ! お客さんにはほとんど聞こえないであろう『ぼそぼそ声』で。彼の声はこの先通るようになることはない。これは仕方のないこと。逆にボケの山内さんがもっと声量を上げて、永見さんの声を消すようなボケがあれば永見さんの声に注目が集まり、それすら笑いに変えられるはず。さらなる進化を期待している。

総評「3分のネタ時間で苦しんでいた」

 この「ツギクル芸人グランプリ」が他の大会と大きく違うのはピン芸人、漫才、コントが入り交じる、何でもありの大会ということと、決勝戦のネタ時間が3分というところだ。

 僕はこういうなんでもありの大会では圧倒的に漫才が強いと思っていた。それは漫才にはアドリブが入れられるからだ。もちろんコントにアドリブを入れるコンビもいるだろう。だが漫才はコントとは比べ物にならないくらい細かく入れられる。ネタに限った事ではなく、会場の空気を感じ、声のトーンを変えたり、間を変えたり、若干キャラクターを変えたり、時にはネタの順番を入れ替えたり。そういう細かなアドリブから大きなアドリブまで漫才なら入れられるのだ。

 しかし今回ファイナルステージへ進んだのは漫才が1組、コントが2組。3分の2をコントが占めている。これがこの大会の肝でもある『ネタ時間3分』がもろに影響してきている部分だ。

 3分という時間は思っているより短い。アドリブを入れようものならあっという間にネタが終わってしまう。アドリブはどのくらい時間がかかるか事前にわからない。

 仮に1分余裕をもったネタを作ったとしよう。そうすると2分のネタということになる。2分で空気作りからオチまで見せられる漫才を作るのは至難の業だ。そうなると3分の漫才でしかもアドリブを入れないという形になる。この大会に出場している漫才師のネタを見てもらうとわかるが、カチっとセリフが決められた漫才やキャラ漫才ばかりで、アドリブが入っている感じは一切ない。

 それなのでコントが勝ち上がりやすくなっているのかもしれない。そんな中、漫才で優勝したストレッチーズは本当に凄い。

 今大会は皆のネタが少し窮屈に見えてしまった。それは少なからずM-1グランプリやキングオブコント決勝のネタ時間の影響があるのだろう。

 今後どうなるかわからないが、この「ツギクル芸人グランプリ」も民放で生放送される大会になった。4分や5分のネタを短くするのではなく、ツギクル芸人グランプリのチャンピオンを目指し究極の3分ネタを作ってこの大会に挑戦し芸能界のスターを目指してほしい。早い者勝ちだぜ!