イラスト/渡辺裕子

 『ちむどんどん』の主題歌「燦燦」いい曲ですよね。美しい自然を描いたアニメーションとともに、空へとまっすぐのびていくような歌声が、明るい朝を連れてきてくれるようで。

しかしいくら三浦大知さんに「大丈夫、ほら見ていて」と言われても、あまり大丈夫とは思えない展開のドラマ本編。まさか朝ドラの主人公について「彼女の恋が実りませんように」と願うことがあるとは思ってみませんでした。さらには彼女の恋した相手について「この人のどこがいいかわからない」とまで思ってしまって、自分でも混乱しています。

 あいかわらず時間の流れがよくわからない『ちむどんどん』世界ですが、とりあえず今は、暢子(黒島結菜)が上京して6年は経っている。ということは、和彦(宮沢氷魚)と同じ下宿に暮らしてる年月も、和彦が愛(飯豊まりえ)と付き合ってる年月も、智(前田公輝)が上京して「あまゆ」に通っている年月も、相当長くなっている。それなのにみんな、変化も成長もしていないように見えるのはどうしてなんでしょう。

金曜日が終わるごとに全員冷凍庫で凍らされて、月曜朝に「あれから○年経ちました」というカビラさんのナレーションの合図で急速解凍されて出てきたみたい。暢子たちの関係性に、時間による積み重ねが全然見えない。暢子と和彦が下宿で毎日どんな会話を交わしてきたのかも、暢子に告白しないまま配達を続けていた智の気持ちも、何も見えてこないのに、いきなり「はい、和彦と愛に結婚の話です!」「暢子に智の気持ちを伝える係として、今までどこで何をしていたかわからないけど早苗(高田夏帆)が再登場です!」「智となぜかフォンターナでデートです!」「暢子、恋だと気づきました!」と言われても、「え、なに、なんでこの人たちはこうなったの?」と戸惑いますよねえ。それにしてもあの黄色いワンピースはどこから出てきたんでしょう。そしてなぜ店の二階で着替えてきたの?

 「なぜ? どうして? 何があった?」と思いながらも、「こうなんです!」と言い切られて話は進み、暢子と和彦はどうやら両思いだと匂わされている。ふたりの気持ちの変化については何も描かれてなかったけれど、ここまでの間に、借金について「ごめんなさい、必ず返します!」、賢秀がオーナー秘蔵のお酒を無断で飲んで「ごめんなさい、償います!」というシーンはたっぷり描かれていたので、暢子がどんな人なのかはよく知ってる。

過去の彼女から推察すると、たぶん、長年の付き合いの友だちの恋人も「ごめんなさい、好きになりました!(謝ったからセーフ!)」って感じで奪うんだろうな。暢子とその家族の、謝ったりお金を返したりすれば許してもらえると思う能天気さ、罪ですよね……大事なものを失った時の心の傷は、どうやっても消せないんですけどね。

 暢子だけでなく、相手の和彦にも、全然応援できる要素がない。「6年以上付き合ってる彼女のパパが結婚を期にマンションくれるって言っててー、彼女かわいいし、僕にはもったいないくらいでー、でも問題がないのが問題なんだよなー。あと別の女の子も最近いいなって思い始めててー」 こんなこと友だちが言ってきたら「は?」しか言えないじゃないですか。「私は全然結婚するつもりないのにー、周りが結婚しなよってー。

智も私のこと好きみたいー。でもほんと私そんなつもりないのにー(好きな男とその彼女のラブシーンを真正面からじっと見ながら)」……これまた「は?」なんですよ。話を聞いていて同じ反応になってしまうくらい、このふたりは似たもの同士でお似合いなので、くっつきたいならそうすればいいんじゃないですかね。ドラマで唯一の常識人・愛ちゃんは、こんな人たちとはさっさと縁を切って、パリで夢を叶えてほしい……あっ、主人公たちを「こんな人たち」ってつい言ってしまった。やっぱり大丈夫じゃないです。

『ちむどんどん』とんちんかんな暢子と、吹き荒れる無自覚な暴力(第11週) 賢秀(竜星涼)のハンバーガーショップでの大暴れ、シェフ(高嶋政宏)による「あまゆ」でパンチ事件など、『ちむどんどん』の世界ではしょっちゅうバイオレンス=暴力シーンが...

『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
日刊サイゾー2022.06.27『ちむどんどん』あっという間に2年経過も、主人公の成長「過程」は見えず…(第10週) 土曜日のまとめ放送でカビラさんが「おでん屋の立て直しから2年も経ちました、早い!」と言っちゃうくらい時間が経つのが早い、ちむどんどん世界。
 この週は「暢子が働いて...
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
日刊サイゾー2022.06.20『ちむどんどん』経験が積み重ならない主人公と、“優しさ”で支配する母親(第9週) レストランのオーナー・大城房子(原田美枝子)は、あの、比嘉家の子どもを引き取りたいと連絡してきた、父・賢三(大森南朋)の叔母さんでした。「まさかやー!」と驚いている...
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
日刊サイゾー2022.06.13『ちむどんどん』新聞社編あっさり終了、毎週ミッションをこなしていく物語?(第8週) レストランで働いて一年半ほど過ぎた暢子が、突然新聞社に研修に行かされた第8週。なぜオーナーは今まで、暢子がホールで料理の説明もできないのに放っておいたの? 新聞社に...
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
日刊サイゾー2022.06.06“ちゃぶ台返し”続く『ちむどんどん』と会話のキャッチボールのない暢子(第7週) 比嘉家によるちゃぶ台のひっくり返しは、これで何回目でしょうか。幼い暢子の東京行きキャンセル、高校生の暢子が決まりかけた就職を蹴って「東京でシェフになる」宣言、そして今...
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
『ちむどんどん』いつ、どこを好きになったのか謎だらけの恋愛編(第12週)
日刊サイゾー2022.05.30

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon