2022年12月7日にリリースされた乃木坂46 31stシングル「ここにはないもの」

 今年でデビュー10周年という節目を迎えた乃木坂46。この1年をざっと見回してみても、枚挙にいとまがないほどに多くのトピックスがあった。

 ここでは、乃木坂46の1年を総括的に振り返りつつ、それぞれのトピックスについてそれがグループにどのような影響をもたらしたのかを述べていきたい。

5期生メンバーお披露目の衝撃と「Actually…」をめぐる騒動

 2021年は生田絵梨花高山一実大園桃子らかつてないほどに多くのメンバーが卒業した年だった。また5期生の募集が始まったこともあり、この時期には大々的に“世代交代“が叫ばれるようにもなった。先人たちの例に漏れず、乃木坂46はグループとしての新陳代謝に成功するのか、という岐路に立たされたのだ。

 なかでも生田というグループを背負う立場にあったメンバーの卒業は、時代の移り変わりを強く感じさせた。しかし、同時に『真夏の全国ツアー2021 FINAL!』における久保史緒里や林瑠奈ら後輩メンバーたちのパフォーマンスから感じられたのは、先輩の意志を引き継いでいくという覚悟。すでに彼女たちの未来は明るく思えた。

 そして22年。やはり今年の大きなトピックスに挙げられるのは、5期生の加入だろう。2月1日にYouTubeにて11人のメンバーが公開されるやいなや、各方面で注目を浴びることになる。それは、単に新メンバーが加入するというニュース性にはとどまらなかった。トップバッターでお披露目された井上和を筆頭に、その洗練されたビジュアルで話題を席巻。アイドルの新メンバーには初々しさがあるものだが、彼女たちはすでに“完成”されていたのである。

 5期生たちは、同月のネット配信番組『乃木坂46時間TV』内で放送された「5期生 お見立て会」にも、これまでの先輩たちの姿からは想像できないほど、堂々たる態度で臨んでいた。3期生であれば大園の涙が思い出されるが、初めてファンの前に立つステージでは緊張するのが当たり前。しかし、5期生はそれぞれの特技を堂々と披露し、さらには楽曲のパフォーマンスも自信に満ち溢れて披露していたように映った。

 キャプテンの秋元真夏は『秋元真夏(乃木坂46) 卒業アルバムに1人はいそうな人を探すラジオ サンデー』(文化放送ほか)にて、5期生の印象を「肝が据わってる感じがした」と語っている。当の本人たちは“緊張”という言葉を口にしているが、秋元はすでに素人離れした存在感を彼女たちから感じ取っていたのだろう。

 

 『乃木坂46時間TV』では、3月にリリースされた29thシングル「Actually…」が初披露され、センターを5期生の中西アルノが務めることも発表。

イレギュラーな新曲とセンター発表とはなったが、加入したばかりの5期生がセンターを務めることへの賛否両論も巻き起こり、また中西の活動自粛によって、山下美月齋藤飛鳥によるダブルセンターverのMVを急遽撮り直すなど、新体制への期待と裏腹に大きなひずみを抱えることになる。

 当時は賛否を巻き起こした「Actually…」であるが、楽曲に関して言えば、これまでの乃木坂46“らしさ”からの脱却を感じさせるという意味ではポジティブな意義をもたらしていたし、前向きなチャレンジだったと思う。ただ、結果的に中西を矢面に立たせてしまったことも事実で、彼女はもちろん5期生たちのその後の活動を考慮しても、より慎重な対応が必要だったとも感じる。

日産バスラでレジェンドと5期生の邂逅、全ツ神宮への帰還

 5月14日~15日にかけて、日本最大規模の7万2千人超を収容する日産スタジアムにて、『乃木坂46 10th YEAR BIRTHDAY LIVE』が開催された。2日間で過去最大級のライブとなった本公演での大きな目玉といえば、卒業生たちの登場だ。

 1日目には生駒里奈伊藤万理華、2日目には西野七瀬白石麻衣、生田絵梨花、高山一実、松村沙友理といった乃木坂46のレジェンドと言える1期生が集まり、10周年の記念すべき日を祝福。乃木坂46が積み上げてきた歴史の重さを感じさせるとともに、未来への明るい希望を持たせてくれた。

 ここで先輩メンバーとともに5期生が共演したことも大きかった。5期生は冠番組『新・乃木坂スター誕生!』(日本テレビ系)や『乃木坂工事中』(テレビ東京系)など、グループ単体での活動が多かったが、この日をもって1~4期生のメンバーと合流し、楽曲をパフォーマンス。5期生曲「絶望の一秒前」で感じさせたのは、センターに立った井上の存在が支柱にあるということ。まだグループにおける立場に揺らぎのある5期生にとって、センターに立つ井上の安定感は計り知れないものがあった。

 これを機に、5期生はひとつのユニットのような形で活動を広げていくが、そのひとつとして今夏の『TOKYO IDOL FESTIVAL』への出演がある。この頃になるとすでに5期生のブランドは確立されていて、当初のイメージや期待さえはるかに追い越すような活躍を続けていた。

 この夏には『真夏の全国ツアー2022』が約3年ぶりに聖地の東京・明治神宮野球場で開催され、座長を務めた賀喜遥香は同ライブにて「これからの乃木坂46を作っていく1人になりたいと思いました」と覚悟を言葉にし、これからのグループの将来は3、4期生が担っていく決意が感じられた公演でもあった。実際に、晩夏にリリースした30th「好きというのはロックだぜ!」では、バラエティ番組やモデルとして個性を発揮していた弓木奈於と金川紗耶という新たなメンバーが選抜入りを果たし、グループに勢いをもたらした。

 

 22年上半期には、乃木坂46から3人のメンバーがグループを去った。新内眞衣星野みなみ北野日奈子だ。新内は『乃木坂46 新内眞衣のオールナイトニッポン0(ZERO)』時代からラジオパーソナリティを務め、『乃木坂46のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)になってからもメインパーソナリティとして大活躍。また、OLとアイドルを兼務していたことでも知られ、OLアイドルという切り口で語られることも多かった。

 星野は言わずとしれた生生星(生駒里奈・生田絵梨花・星野みなみ)として初期から中心メンバーとして活躍し、キュートなルックスと愛されキャラでファンのみならず、メンバーからも愛されていた。

 北野はアンダーと選抜を行き来しながらも、その葛藤を力強くパフォーマンスへと昇華してきた実力派。普段の無邪気な笑顔とは裏腹に、22ndシングル「帰り道は遠回りしたくなる」(18)のアンダー曲「日常」で見せる迫力のあるパフォーマンスは、現在のアンダーメンバーたちへと受け継がれている。こうした1、2期生の相次ぐ卒業は昨年から続いていることだが、彼女たちがグループに残していったものを改めて顧みることにもなった。

 
 また、下半期には2期生の山崎怜奈、そして1期生の樋口日奈和田まあやが卒業を発表。山崎と和田は3、4期生が中心となるメンバーを率いて、アンダーの歴史を作り上げてきた張本人である。山崎は『アンダーライブ2021』で、和田は『30thSG アンダーライブ』でそれぞれ座長を務め、後輩たちとともにアンダーの歴史を作り、継承してきた。彼女たちの卒業によって現在、アンダーは実質3、4期生のみの構成となったが、これは新たなアンダーの芽吹きを意味している。たくさんの経験値を積んだ3、4期生が中心となる31stシングルアンダー曲以降、その真価が試されることになるだろう。

グループの支柱・齋藤飛鳥の卒業ソングと表現力

 3、4期生の台頭にアンダーの変化……と、乃木坂46はかつてないほどに”新陳代謝”が活発となった2022年。その象徴とも言えるのが、エース・齋藤飛鳥の卒業発表だ。

 齋藤は乃木坂46の顔としての立場を一身に引き受け、これまでに15th「裸足でSummer」(16)や、21st「ジコチューで行こう!」(19)など多くのシングルでセンターを経験し、フロントとしても賀喜や中西といった後輩メンバーを支えてきた。

 かつてはお姉さんメンバーが多かったこともあり、妹キャラとしての印象も強かったが、後輩が増えてからは裏でサポート役に回るなど先輩らしい一面も。ラジオ番組『乃木坂46の「の」』(文化放送)に遠藤さくらが出演した際には、遠藤がセンターというポジションを不安に思っていたところ、齋藤から「私には申し訳ないって思わないでほしい」と声をかけてもらったというエピソードを話していたように、齋藤はグループ全体にとって支柱のような存在になっていたようだ。

 齋藤のラストシングルとなった31st「ここにはないもの」は、齋藤の卒業を優しく送り出していくようなミディアムバラードになっており、齋藤の洗練されたダンスが目を引く。齋藤がセンターを務めた23rd「Sing Out!」(19)は個人的に彼女のベストソングだと感じているのだが、その齋藤の表現力がさらに洗練された形で発揮されているのが「ここにはないもの」のように感じた。先輩たちの卒業ソングは後輩たちが強い思いを込めて歌いつないでいくものとなっているが、同曲もそのような楽曲になるはずだ。

 では、23年の乃木坂46はどのようなシーンを迎えるのか。これから期待されるのは、まだ単体としての活動しかない5期生がどのようにグループ全体と関わっていくのかだろう。

 5期生の成長は、12月に開催された『新・乃木坂スター誕生!LIVE』で見ることができた。『乃木坂スター誕生!』で多彩な個性を開花させた4期生と同様に、5期生もパフォーマンスに磨きがかかっており、どこのポジションに入ったとしても即戦力として活躍できるポテンシャルを秘めている。32ndシングルではおそらく5期生が選抜、アンダーに入ってくることが予想されるなか、5期生単体の活動で培われたパフォーマンス力を発揮できるのか楽しみにしたい。

 そして21年から22年にかけてが乃木坂46の世代交代の過渡期だったとするならば、23年は乃木坂46が新しく生まれ変わり、さらなる発展へと進むタームでもある。それには、5期生との調和が欠かせない。これまでのベースとなる乃木坂“らしさ”は大切にしつつ、新たな挑戦の年になってほしい。