この年末年始も、テレビではたくさんのお笑い特番が放送され、劇場では「○○no寄席」をはじめとする新春恒例のお笑いライブが多数開催された。今やそのほとんどがオンラインで視聴できるため、家から一歩も出ることなく「お笑い漬け」の年末年始を過ごすことができる。

 しかし、本当にそれでいいのだろうか。便利な世の中になったからこそ「生」で観るお笑いに価値があるのではないか。そんな天邪鬼、逆張りの精神で僕は新年早々1泊2日「大阪お笑い遠征」を敢行した。そこで僕は「大阪の笑い」に感動したので、旅日記のような形でここに記させてもらう。

 1月4日
 夕方に都内でラジオ収録を終え、急いで新幹線に飛び乗り大阪へ。まず向かったのが、道頓堀から程近い「楽屋A」という劇場だ。

「楽屋A」は、簡単にいうと主に「非吉本」の芸人が出演する劇場である。加藤進之介さんという若いイケメンのお兄さんが一念発起して脱サラ開業、芸人ファーストをモットーに数人の仲間と切り盛りしている。

 その日は「口火」というバトルライブが行われていた。どうやら楽屋Aで行われているライブの中でいちばんマニアックなライブのようで、MCが「年始からバトルライブに出る芸人も、観に来る客もお笑い好きすぎる」と言っていたが、本当にその通りの濃い内容だった。大学お笑いサークル所属の芸人、フリー芸人、兼業芸人、芸歴20年超え松竹孤高のピン芸人竹下ポップさんなど、多種多様な大阪芸人がしのぎを削っていた。かなりディープではあったが、出演者も客もスタッフもお笑い愛にあふれた素敵な空間だった。

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バトルライブ「口火」の様子(以下、写真すべて筆者提供)

 その日はガングリオンという若い男女コンビが優勝したのだが、クボさんという女性のほうが、達者かつパワフルで芸人としての華を感じたので今後要注目。

 大阪のお笑いの本流は吉本、というのは今も変わらないのだが、こうして大阪の別の場所からお笑いのムーブメントが徐々に起こりつつあるのはとても喜ばしいことだ。「楽屋A」はステージも客席もきれいでしっかりしていて、初見さんも入りやすく、ほぼ毎日何かしらのお笑いライブを開催しているのでぜひ足を運んでみてほしい。

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「楽屋A」入り口

 ライブ終わりに『THE W』決勝常連のにぼしいわしと食事。彼女たちはどこの事務所にも所属せずフリーで活動しているのだが、大阪を拠点にフリーで活動することがいかに大変か、だからこそやりがいがあって唯一無二になれると信じて道を切りひらこうとしている2人に胸打たれた。そしてしっかりと大阪芸人のゴシップも仕入れさせてもらった。

ありがとうにぼしいわし。

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にぼしいわしと筆者

 1月5日お昼に金属バットの元マネージャーFさんと一緒に吉本社員御用達の中華を食べていると、ロングコートダディのマネージャーさんがご挨拶にきてくださった。「大阪やなぁ」と思いつつこの旅のメイン「なんばグランド花月」へ。

 昼の部の「本公演」を観させてもらったのだが、客席はもちろん満員御礼、出演者も超豪華。すゑひろがりずの正月感満載の最高パフォーマンスから始まって、アインシュタイン→蛙亭→ビスケットブラザーズ→見取り図という人気者たちの最強リレー。しかも『M-1』などの賞レースでやるネタとは少し違う、フリを長めにしたりテンポをスローにしたネタが新鮮で心地よかった。

 圧巻はその後に出てきたシャンプーハット、最近は関東で彼らのネタを見る機会が減っていたのだがとにかく声が出ていて感動した。NGKの800キャパを揺らすためにはあの大声はとても大事だし、2人の濃い顔がとてもNGK映えしていた。さらにそこから「チッチキチー」でおなじみ大木こだま・ひびき師匠、そしてトリは桂文枝師匠で締める盤石ぶり。文枝師匠に至っては最近の出来事であろうバッチバチに仕上がったエピソードトークを披露していた、御年79歳、すげえ。

 ここまでで十分お腹いっぱいなのだが、休憩をはさんでからがっつり吉本新喜劇。座長のすっちーさんが「漫才の前にアメを配る」でおなじみ元ビッキーズなことは知っていたのだが、すっちーさんの右腕のツッコミ役、千葉公平さんがどこかで見たことある顔だし聞いたことある声だと思って後で調べたら、元ハローバイバイ「都市伝説を言わないほう」の金成さんだった。

ビッキーズとハローバイバイが新喜劇の屋台骨を支えるようになるなんて、お笑いって面白い。

 NGKの本公演を初めて観て感じたのは、とにかく客層がバラバラなこと。年始すぐの公演だったので修学旅行生はいなかったが、子どもからお年寄りまで老若男女いろんな世代のお客さんがいて笑うポイントがそれぞれ違うのが面白かった。そんな中でたまに起こる、全員が大爆笑する「全てがバチっとハマる瞬間」は圧巻だった、これは配信じゃ絶対に味わえない。金属バットの2人が最終的な目標として「NGKの本公演に出ること」と言っていたのが少しだけわかった気がする。あのステージであの客全員を笑わせるのは並大抵のことじゃないし、それができてこそ本当の意味で一人前の芸人なのかもしれない。

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当日のNGK香盤表

 NGK本公演を見学させてもらった後、たまたま本社にいたDr.ハインリッヒのお2人と作家の吉岡さんに新年のご挨拶、これでもかと「大阪やなぁ」を感じる。その後、金属バットの元マネージャーTさんと、現マネージャーKさんに「大阪くいだおれツアー」に連れて行ってもらった。

 Tさんが大食いであることはYouTubeラジオ『金属バットの声流電刹』などでうかがっていたのだが、良い意味でも悪い意味でもすさまじい夜となった。1軒目「ホルモン」、2軒目「タイ料理」、3軒目「寿司」、4軒目「バーでどん兵衛」、2軒目から合流した金属バット友保さんもめちゃくちゃ引いていた、大阪恐るべし、友保さんが引くんだからよっぽどだ。Tさんは4軒目を出た後「シフォンケーキが食べたい」と言っていた、怖すぎる。4軒目なんて友保さんとどん兵衛を食べるというとてもエモい状況だったのにもかかわらず、己との戦いでそれどころじゃなかった。

 ちなみにKさんのほうは格闘技の全日本大会で入賞するほど屈強な男で、僕をシバくなら「ボディ殴った後にヒザ蹴りしてもう一発ボディ」と言っていた。今後絶対にシバかれないように仕事をしなければならない。日本一食べるマネージャーと日本一強いマネージャー、吉本は社員にも逸材がいる、向こう100年安泰だと思った。夜6時に始まった「くいだおれツアー」は、明け方3時30分にお開きとなった。

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4軒目を出たところの友保さんと筆者

 吉本の「なんばグランド花月」、そして新しいムーブメントを起こしつつある「楽屋A」、2つの劇場、そしてそこにかかわる人全てに「大阪の笑い」が詰まっていた。便利な世の中になったとしても、しっかりと現場に足を運ぶことの大切さを再認識することができたとても有意義な旅だった。今年もたくさん劇場に通いたい。

(編集/斎藤岬)