生命の喪失と再生、夢の終わりと現実との対峙。文字にすると仰々しいが、そんな普遍的なテーマをユーモアと祝祭感をたっぷりに描いたのが、ただいま絶賛ブレイク中の城定秀夫監督の新作映画『銀平町シネマブルース』だ。
イケてない高校生たちの青春映画『アルプススタンドのはしの方』(20)をスマッシュヒットさせ、年明けにはシスターフッドムービー『恋のいばら』が公開されたばかりの城定監督。コメディ、エロス、アクション、サスペンスなど、あらゆるジャンルの作品を撮り上げる城定監督に、上質の脚本を提供したのは、『れいこいるか』(20)が「映画芸術」日本映画年間ベスト1位に選ばれた鬼才・いまおかしんじ監督。共にピンク映画出身の2人がタッグを組むのは、本作が初となる。コロナ禍で喘ぐ、町の映画館にエールを贈る作品として企画された。
城定ワールドといまおか節の融合は、素晴らしい相乗効果を生み出した。
物語の舞台となるのは、小さな町・銀平町に昔からある映画館「銀平スカラ座」(ロケ地は川越スカラ座)。この劇場で映画を観て育った男・近藤猛(小出恵介)が、無一文状態で帰ってきた。
どこにも行き場のない近藤に、「銀平スカラ座」のお人好しの支配人・梶原(吹越満)が手を差し伸べる。劇場でバイトとして働き始める近藤だった。
劇場には変わり者たちが、次々と現れる。
ひときわ強烈なのは、ホームレスの佐藤(宇野祥平)だ。劇場に置いてある映画のチラシを1枚100円で売るセコい佐藤だが、生涯ベストワン映画に『カサブランカ』(42)を挙げるなど、深い映画愛の持ち主でもある。
そんなダメダメな人たちが映画に注ぐ愛情に触れ、近藤は少しずつ生きる気力を取り戻していく。
面白い脚本を、演出でより面白くする城定監督
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「城定作品にハズれなし」という言葉が映画マニアの間にはあるが、映画館と映画づくりをモチーフにした『銀平町シネマブルース』は、いつも以上に城定監督の魅力が詰まった作品となっている。オリジナルビデオ映画の傑作『デコトラ☆ギャル奈美』(08)など、城定監督と長年タッグを組んでいる制作会社「レオーネ」の久保和明プロデューサーに、城定作品の魅力を聞いた。
久保「城定監督が助監督だった頃から彼の仕事ぶりを見てきましたが、どうすれば作品がより面白くなるかを常に考えている人ですね。
城定監督は脚本家としての評価も高い。近年も今泉力哉監督に『猫は逃げた』(21)、安川有果監督に『よだかの片想い』(21)のシナリオを提供している。逆に他の脚本家から提供されたシナリオの場合は、そのシナリオのよさを損なうことなく、現場での演出でより面白くしてしまう。
久保「脚本は映画にとっての設計図なので、脚本を尊重するのは当然ですが、城定監督は撮影現場の状況を見て脚本を変えることもありましたし、映画がよくなると思えばキャストがしゃべりやすいように台詞を変えることも多々あります。今回だと、映写技師役の渡辺裕之さんと小出さんが男同士でダンスを踊るシーンがあります。いまおかさんが書いた準備稿では1回だけですが、ダンスシーンがとても印象的だったことから、別のシーンでもう一度踊ってもらっています。撮影稿にする際に、城定監督が加筆したんです。撮影後に亡くなった渡辺さんのことが偲ばれる、とても感慨深いシーンになったと思います。
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ピンク映画やオリジナルビデオ映画も含めると、監督としてこれまでに撮った作品数は100本を軽く超える城定監督。ここ数年も年間4~5本ペースで劇場映画を撮り続け、映画ファンはもちろん、映画業界での評価もますます高まっている。業界内評価が高い理由も、久保プロデューサーは語ってくれた。
久保「城定監督のすごいところは、どんな状況でも決して諦めないということですね。予算の少ない作品の場合は準備期間も短く、現場ではいろんな想定外のことが起きがちです。
これは長年、撮影スケジュールのタイトなオリジナルビデオ映画を撮り続け、磨かれてきた能力なのかもしれません。たまにしか撮らない監督だと、このへんは難しいように思います。
予定通りに撮影できないとその日は撮影が中止になってしまうこともありますが、予備日を使える余裕のなかった現場で地力を付けたからこそ、城定監督は結果的に納期も守ることになる。アクシデントも悲観しすぎず、常にベストを探りながら撮り上げるので、現場の士気が高いんです。ようやくメジャーな映画会社も城定監督に注目しているようで、うれしく思います」
映画館を舞台にした『銀平町シネマブルース』は、映画館シーンを埼玉県川越市の川越スカラ座で、それ以外のシーンは千葉県木更津市などでロケ撮影している。主要キャラクターだけで20人が登場する群像劇を、12日間で撮り切ったのも城定監督ならではの手腕だろう。
久保「スカラ座で上映される劇中映画が2本ありますが、この劇中映画2本も城定監督自身が撮影初日にまとめて撮っています。劇中映画も手を抜かず、細かいところまでしっかり撮るところが城定監督らしいですね。その分、無駄なシーンはいっさい撮らない。彼が助監督として育ってきた頃のピンク映画は、フィルム撮影でした。余計なシーンを撮ると、フィルム代が嵩んでしまいます。だからなのか、台本の段階から無駄なシーンは省き、無駄なカットは撮らず、撮影現場でも必要以上に悩まない。撮影現場でシーンの繋がりも頭の中では構築されているので、編集でも悩むことが少ないのだと思います。城定監督は編集作業もとても早い」
「城定監督は早撮りが得意」と言われているのは、これまでの制作環境がそうさせていたようだ。環境という意味では、出演者たちから自然な演技を引き出すことにも優れている。オリジナルビデオ映画では、演技経験のほとんどないグラビアアイドルやセクシー女優たちを魅力的に撮り上げてきた。城定作品のヒロインたちは、みんな名女優に思えてくる。ベテラン俳優も新人俳優も、城定ワールドではみんなキラキラと輝くことになる。
見終わった後に、明るい気持ちになれるJOJO作品
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主人公の近藤猛を演じた小出恵介は、俳優デビューする前は渋谷のイメージフォーラムに通い、自主映画を撮っていたそうだ。つまずいた者も優しく受け入れる映画館を舞台にした物語は、小出にとって再スタートを切るのにふさわしい作品だろう。
物語後半、近藤は映画を通して「過去の自分」と向き合うことになる。大切な人たちとの別れもあった。近藤の脳裏に、苦い記憶が蘇る。だが、映画自体は決して重くなりすぎず、ユーモアとペーソスが程よくブレンドされたエンタメ作品として仕上がっている点も城定作品らしい。
久保「学生時代から映研で映画を撮り、名画座やピンク映画館に通っていた城定監督なので、彼の作品は自然と映画への愛が溢れたものになっているのだと思います。それでいてあまり湿っぽくならず、さらりと描いていても、観た人それぞれに何かしら伝わってしまうのが城定作品の摩訶不思議なところです。映画を見終わった後には、少し前向きな気分になれる。明日もがんばろうかなという気持ちになる。それが城定作品のいちばんの魅力だと思います」
城定作品は面白い作品が多すぎるため、何から観ればいいか悩む人もいるかもしれない。本作と同じように映画制作を題材にしたコメディ映画『ホームレスが中学生』(08)やピンク映画の秀作『悦楽交差点』(16)や『犯す女 ~愚者の群れ~』(19)などはAmazon Prime Videoでも配信中なので、未見の人はぜひチェックしてみてほしい。きっと、JOJO作品の虜になるだろう。そして、「銀平スカラ座」にも足を運びたくなってしまうに違いない。
『銀平町シネマブルース』
監督/城定秀夫 脚本/いまおかしんじ
出演/小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、黒田卓也、木口健太、小野莉奈、平井亜門、守谷文雄、関町知弘、小鷹狩八、谷田ラナ、さとうほなみ、加治将樹、片岡礼子、藤田朋子、浅田美代子、渡辺裕之
配給/SPOTTED PRODUCTIONS 2月10日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2022 「銀平町シネマブルース」製作委員会
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