イラスト/渡辺裕子

 家が裕福だから、欲しいものは(苦々しい顔をされつつも)なんでも買ってもらえ、家業は継がずに東京に出て植物学の道に進むことを認められ、そしてとうとう、学生でもないのに東大に出入りが許されるところまで来た、万太郎(神木隆之介)。元々の恵まれた生い立ちに加えて、人懐っこい笑顔でコミュ力が高く、誰からも愛される、ナチュラルボーン人たらし。

すべてを持っているように見える、こんな人に笑いかけられたら、私は心からの笑顔を返せるだろうかと考えてしまう1週間でした。彼の「持ってる」感じ、私のような「持ってない」人たちには、まぶしすぎる。

 そして「まぶしい!」と思うたびに、自分の器の小ささも思い知らされる。子どもの頃から彼を見てきて、草花への思いも、ひとりで学び続ける努力も、運命にあらがうしんどさも、全部知っていてもそう感じちゃうんだから、まだ彼をよく知らない東大生のみなさんのモヤっとする気持ち、よくわかる。もし私が東大生の1人なら……英語ペラペラで標本作りがうまく、植物学の本をほぼ暗記して自らをグーグル化、そしてとても美しい植物の絵を描ける、小学校中退の万太郎を見て、落ち着いていられるだろうか。気難しい田邊教授(要潤)に気に入られて褒めちぎられる万太郎を見たら、どう感じるだろう。

万太郎の存在を認めてしまうと「必死に学校で何年も勉強してやっと入れた東大なのに、自分の努力はなんだったのか」って深く落ち込んでしまいそう。私なら、絶望してうさぎ小屋にこもるか、徳永助教授(田中哲司)側についてダークサイド勢力として万太郎を追い出したくなるかも。

 でも、万太郎が東大で田邊教授に出会えたのは、彼が植物への「好き」を諦めなかったからなんですよね。自由に「好き」でいたい気持ちが、高知での中濱万次郎=ジョン・マン(宇崎竜童)との出会いを呼び、東京へ向かわせ、中濱万次郎を知る田邊教授につながり、ふたりは共鳴することになる。「好き」は誰かの「好き」と繋がっていく。諦めずに好きでい続けることこそが、彼の才能なんだけど、そして植物好きでいることは時に彼を苦しめてもきたんだけど、万太郎を妬んでいる人たちにはそこまでは見えない。

だから、東大に出入りを許されたと万太郎から聞かされてもダークサイドに落ちなかった長屋の丈之助(山脇辰哉)、本当にえらいなあと思いました。自分は東大を落第していて親からの援助を切られている、それなのに万太郎は、という苦い気持ちを双子の卵とともに飲み込んで、「がんばれ」とエールを送ったシーン、よかったですね。この時味わった苦さは絶対、いつか彼が作る何かに繋がると思う。

 それにしても、東京編になって次々と新しい登場人物が出てくるのに、普通に会話している様子だけで「あ、この人はこういう立場で、こんな性格なのね」とすっと頭に入る物語になってるの、すごくないですか? 東大の学生や教授たちのこと、もうだいたい知ってる気がする。菓子店の白梅堂でも、寿恵子ちゃん(浜辺美波)は彦根藩の武士だったお父さんに可愛がられて育った、『八犬伝』に萌えて登場人物と一体化したい系オタクな女の子、お母さんのまつさん(牧瀬里穂)は元柳橋の芸者、叔母のみえさん(宮澤エマ)は新橋の料理屋のおかみさん、文太さん(池内万作)は甘いもののあとにおかきを出すような気が利く職人などなど、お茶時のおしゃべりを聞いたくらいで彼らの現在の状況がわかる。気持ちのいい名人芸を見ているかのような作劇、すばらしい。

 ドラマが本格的に東京編になるのといっしょに、とうとう万太郎もオープニングで空を飛んでいる時と同じく、洋装にチェンジ。新しい仕事に着くことになった竹雄(志尊淳)も洋装になりそうでわくわく。みえさんが持ち込んだdanceの話に惹かれているらしい寿恵子ちゃんも含めて、これから「見たことのない世界」へ飛び込んでいく3人、たのしみです。

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日刊サイゾー2023.04.24

■番組情報
NHK連続テレビ小説『らんまん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将、中村里帆、島崎和歌子寺脇康文広末涼子松坂慶子、牧瀬里穂、宮澤エマ、池内万作、大東駿介成海璃子、池田鉄洋、安藤玉恵、山谷花純中村蒼田辺誠一いとうせいこうほか
作:長田育恵
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん「愛の花」
語り:宮﨑あおい
制作統括:松川博敬
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
植物監修:田中伸幸
制作:NHK
公式サイト:nhk.jp/ranman