カベポスター(「吉本興業公式サイト」より)

 「いや、カベポスター、強いわ!」。6月7日に大阪・よしもと漫才劇場で行われた公演『ワーワーJAPAN』で、さや香・新山は登場するといきなりそう唸った。

 新山が「カベポスター、強い」と口にしたのは、5月27日に関西テレビとラジオ大阪で生放送された『第58回上方漫才大賞』の新人賞を振り返ってのものだった。『上方漫才大賞』は「カミマン」の略称で親しまれ、笑いの街・大阪の上方演芸界でもっとも長い歴史を持つ賞である。新人賞、奨励賞、上方漫才大賞の3部門が設けられており、新人賞の対象は結成年数10年目までとなっている。

ドーナツ・ピーナツが飛躍、グルーヴ感を生む方言丸出しツッコミ

 『ワーワーJAPAN』のメイン出演者であるさや香、ダブルヒガシ、そしてこの日のゲストだったドーナツ・ピーナツも『第58回上方漫才大賞』に出演していた。そのなかでもさや香は『M-1グランプリ2022』準優勝の実績から優勝候補の筆頭とされており、しかも披露したネタ「ウニ」は『M-1 2022』3回戦を勝ち抜いた勝負手のひとつ。実際にネタもかなりウケていたことから自信もあったはず。それだけにあらためて「カベポスターの壁」の高さを実感していたように見えた。

 ダブルヒガシも『第58回上方漫才大賞』ではトップバッターだったにもかかわらず、会場を大きく盛り上げていた。『ワーワーJAPAN』では、いつもシビアな『上方漫才大賞』の舞台監督から「トップバッターでこんなにウケたのは見たことがない」というふうに絶賛されたのだという。その言葉が余計に、カベポスターの強さを際立たせているように感じた。

 また、ドーナツ・ピーナツも素晴らしかった。披露したネタは、ピーナツが「犬を飼いたい。そのためには犬の気持ちを理解したい。

今日から犬になりきるので、俺を飼ってほしい」とドーナツにお願いするもの。このネタは最近、ドーナツ・ピーナツの舞台で何度も見かけるもの。各賞レースに向けてブラッシュアップしていることがわかる。犬になりきりすぎてシンプルに「ヤバいやつ」へ変貌するピーナツを、北九州市出身のドーナツが方言全開でツッコむ内容なのだが、このドーナツのブチギレツッコミがここ1年くらいで目覚ましく飛躍。偉そうな言い方で恐縮だが、見るたびに凄くなっている。ドーナツのツッコミが同コンビの漫才のテンポ感……というよりグルーヴ感を生み出している。

 千鳥のノブ然り、近年全国的にウケている方言ツッコミ。なかでもドーナツの北九州の地元丸出しなブチギレツッコミは、語感、キレ、ワードチョイス、すべての面で完ぺきに近いのではないだろうか。そんなドーナツのツッコミをどんどん乗せていくピーナツの存在は、もはや“怪物”である。かわいらしいルックスから繰り出される変態的思考と勘違い発言の数々。何をしても、何を言っても許されるような愛嬌抜群の見た目だからこそ、余計に厄介に映る。筆者個人は『第58回上方漫才大賞』の全組のネタを見終わったとき、「ドーナツ・ピーナツが勝ったんじゃないか」と思ったほどだった。

 そんなツワモノたちを退けた、カベポスター。2021年に『第6回上方漫才協会大賞』、2022年に『第11回ytv漫才新人賞』『第43回ABCお笑いグランプリ』優勝など近年の関西の主要新人賞を獲りまくっていて、まさに無双モードに入っている状況。年末のビッグタイトルも十分狙えるだろう。

NHK漫才コンテスト』で強烈に輝いた爛々

 そんなカベポスターが2021年、2022年に2年連続で逃したタイトルが『NHK漫才コンテスト』(NHK)である。

 この10年の同賞優勝者は、ウーマンラッシュアワー和牛、アキナ、ミキ、ゆりやんレトリィバァ、アインシュタイン、さや香、ネイビーズアフロ、ビスケットブラザーズ、天才ピアニストと錚々たる顔ぶれ。6月9日には『第53回NHK漫才コンテスト』が開かれ、決勝戦ではコント師のスナフキンズが漫才師の爛々を撃破した。

 スナフキンズは1本目が「立ち飲み屋でとにかく『座りたい』とゴネる客」、決勝で「反抗期に反抗する少年」のネタを見せた。どちらも焦点がきっちり絞られた、筋の通った内容。特に決勝ネタは、漫才に置き換えてもうまくいきそうなほど見事な設定と展開。悪魔に体を乗っ取られたように反抗期に侵食されていく息子役・松永ボディの葛藤、それを受け入れる母親役・朝池亮介。はっきり言って「最高」のストーリーだった。

 準優勝の爛々にも驚かされた。

2022年の『THE W』決勝などではまだ粗々しさを感じたが、わずか半年で、非常に洗練された雰囲気になった。大国麗は『NHK漫才コンテスト』のなかで、審査員も務めているハイヒールのリンゴから持ちネタ「チョメ」を以前から「使いすぎ」と言われていたそうだが、確かに「チョメ」を抑えることでよりキラーフレーズ感が出てきた。

 そして何より強烈だったのが、萌々である。ドーナツ・ピーナツのドーナツがブチギレツッコミなら、萌々はブチギレボケ。以前まではその勢いが凄すぎて、また騒々しさもあって笑いどころがボヤけて見えていた。ただ、声だけではなく萌々が発する全体的な「ボリューム感」のチューニングがとても良くなっていて、自然な調子で笑えるようになっていた。2本のネタのなかに放り込まれていたいくつかのワードも印象に残り、審査員や司会の千原兄弟もそれらをついつい口にしていた。ある意味『NHK漫才コンテスト』は爛々のための大会になった部分があった。とにかく仕上がりがハンパなく「これは『THE W』はまちがいなくイケるだろう」と思えた。

 7月9日には『ABCお笑いグランプリ』(ABCテレビ)も開催される。関西はまさにお笑いのシーズン真っ最中である。

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