不況になると、お笑いブームが起きると言われている。わかりやすいところでは、1979年から81年にかけて「漫才ブーム」と呼ばれる空前のお笑いブームが社会現象となり、その漫才ブームで人気を博した芸人たちによって「笑ってる場合ですよ!」(フジテレビ系)や「俺たちひょうきん族」(フジテレビ系)など後に人気となるバラエティ番組が始まった。
バブルがはじけた90年前後から、また新たなお笑いブームが到来した。それはとんねるずさん、ダウンタウンさん、ウッチャンナンチャンさん、B21スペシャルさん、ABブラザーズさんなどが活躍した「お笑い第三世代」と言われるお笑いブームだ。まさに、現在40代以上の当時の若者たちが一番のめり込んだ時代のお笑いだ。今バラエティ番組の中心で活躍するMCのほとんどが、このブームの影響を受けているといっても過言ではない。
ちなみに、60年代に林家三平さんや落語四天王(立川談志さん、三遊亭圓楽さん、古今亭志ん朝さん、春風亭柳朝さん)などの落語家を筆頭に、Wけんじさん、やすしきよしさんなどの漫才師、コント55号さん、てんぷくトリオさん、そしてザ・ドリフターズなどのコントグループにより、テレビの演芸番組を中心としたお笑いブーム「演芸ブーム」があり、それがのちに「第一次お笑いブーム」と呼ばれている。
どのブームも裏には不景気があり、なぜその時期にお笑いが流行るかというと、不景気のときは視聴者がテレビに笑いを求めるというのが一応の根拠となっている。さらに、不景気時はテレビ局自体が経費削減で番組制作にお金をかけることが出来ない。なので、経費を浮かせやすいバラエティ番組やクイズ番組が番組編成の軸となり、そこで必要とされるのが芸人なので、必然的に芸人を目にする機会が増えてブームになるというのも根拠のひとつと言われている。
何はともあれ、不景気なときこそお笑いに勢いが出るのだ。そんなときに視聴者がお笑い番組に求めるものは、具体的に何なのだろうか。昨今の賞レースブームを鑑みると、一番求められているのはやはり漫才やコントなどの“ネタ”だろう。
そして、僕が思う、今の時代だからこそ求められているもの。それは“芸人の恋愛話”。そこまで供給が多いわけではないが、芸人同士が付き合ったり、男女として好きという話は肯定的に受け止める視聴者が多い。芸人ならではの微笑ましい恋愛が視聴者の幸福感を高めてくれるのだろう。
そして、昔から視聴者の大半が何となく興味があり、つい見てしまうのは「稼ぎ」についての話だ。そんなことないと思う人もいるかもしれないが、芸能人長者番付や芸能人年収ランキングなどがいまだに存在し、話題になるということは、やはり興味があり、視聴者サイドの需要があるということだ。もちろん「高額納税者公示制度」があったからという意見もあると思うが、制度が廃止された今でも続いているということは、やはり誰がどの程度稼いでいるという話は間違いなく一興なのだ。
しかし、今の世の中、芸能人でなくとも“儲けている”と公表することは叩かれたり炎上したりする要因であり、SNSで誹謗中傷を受けてしまうこともある。さらに“稼いでいる”と公の場で言う事はナンセンスであるという風潮もあり、余計に言いにくい状況だ。
そうなると、一興である「誰がどのくらい稼いでいる」という話を聞けない世の中になってしまう。そんなつまらない状況を打破する方法があるとすれば、それは「暴露」だ。7日にお見送り芸人しんいちさんのYouTubeチャンネル「お見送り芸人しんいちの『愛されたい』」で、ある動画が投稿された。2022年のR-1グランプリで見事王者に輝いたしんいちさんだが、今は炎上騒ぎや問題発言などで「好感度の低い芸人」というレッテルが貼られてしまっている。そこで元祖好感度の低い芸人、安田大サーカスのクロちゃんをゲストに招いてトークをするというもの。
その動画内で話題になったのが“クロちゃんがCMでいくら稼いでいるのか”というトークだった。数多くのCMに出演しているクロちゃんに対して、しんいちさんが「ぶっちゃけこっちの方は?」とギャラについて質問すると「カメラ回ってる状態で言うの?」と躊躇しつつ「しんいちはかわいい後輩だからね。僕がもらったCMのギャラは……96万円で96(クロ)。クロちゃんです」と芸人らしくボケたのだが、しんいちさんは「おもんな」と一蹴。
冷めているしんいちさんに対して慌てたクロちゃんはマネージャーさんに確認を取り、1年契約のCMギャラを公表。なんとその額1000万円。
このような形であれば、今の風潮に当てはまることはなく問題にならない。さらにクロちゃんならば“1年1000万円”は当然の対価であると同時に、キャラクター的に叩かれたとしても痛くも痒くもないだろう。
人が儲けているという話を聞くと、羨ましいなと思う反面、景気がいい話なので、少し嬉しい気持ちになる。当然こういう話は尾籠な話だと捉える人もいるかもしれないが、こういう話を面白おかしく受け入れられる世の中になったとき、初めて景気が回復してきたと言えるのかもしれない。
お笑いの形が変わりつつある今、「お笑いブームと不景気」というアノマリーが「お笑いブームと好景気」に変わる可能性もあるはずだ。まあ景気に左右されないのが一番なんだけどね。
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