トークナビ代表の樋田かおりさん

 近年、中野美奈子内田恭子など元アナウンサーが上場企業の社外取締役に就任するケースが増えている。法改正により、2021年から上場企業は社外取締役の選任が義務づけられた。

さらに、政府は2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にするよう求めている。

 そうした背景に加え、元女性アナが社外取締役に就任する具体的なメリットについて、株式会社トークナビ代表の樋田かおりさんはこう語る。

 「企業が元女性アナを社外取締役に起用するメリットとしては、メディア露出の際のアドバイス、経営者のスピーチのクオリティ向上、不祥事の対応などのリスクマネジメント、などが考えられます」

 樋田さん自身も元青森放送のアナウンサーで、独立後、トークナビを設立。同社では、女性アナによる研修事業や、女性アナが企業の広報代行を行うサービス「女子アナ広報室」を展開している。

 「『女子アナ広報室』を展開する中で気づいたのですが、そもそも対外的な伝え方や見せ方を苦手としている企業が多い。一方で、アナウンサーは伝え方や見せ方のプロです。

そのため、そういった点を強化したいという狙いも、元女性アナの社外取締役起用にはあるのでしょう。ただし、社外取締役に起用しただけでは意味がないですし、お飾りで終わらせないためにも、企業側の手腕が試される施策でもあると思います」(樋田さん)

在京キー局アナと地方局アナの違い

 企業が苦手とする「伝える・見せる」能力を身につけていて、才色兼備な人物が多く、清廉潔白なイメージを持つ元女性アナが、社外取締役というポジションにうまくマッチしているようだ。

 一方で、「現状、社外取締役に就任している方々は、いわば“女性アナピラミッド”の頂点にいるような人たちです。同じアナウンサーとはいえ、地方局出身者とキー局で知名度や人気も高かった方々とでは、いろいろな点で違いがあります」と樋田氏。

 在京キー局と地方局のアナウンサーの大きな違いの一つが、仕事への関わり方だという。分業制が徹底している在京キー局では、アナウンサーは用意された原稿を読むため、伝えることに専念できるが、地方局では企画を考えるところから始まるケースが多い。企画書を書き、取材先にアポイントを取り、カメラマンらと取材に臨む。

原稿も自分で書く上、取材した映像を自ら編集するケースもあるという。

 「地方局の番組制作は少数精鋭なので、アナウンサーはディレクターや記者の仕事も兼務しているのが実情です。そのため、伝えるスキルは高くなりますが、30歳を過ぎると他部署に異動になったり、結婚を機にアナウンサーを引退したりするケースが多いのも現実です」(同)

 退社後、フリーランスの道を選んだとしても、仕事を勝ち取るのは難しい。たとえば、リポーターのオーディションでは、アナウンサーだけでなくタレントやモデルなどの人たちとも、限られた席を奪い合うことになる。

 「私自身も、フリーランス転身後にオーディションに参加しては落ちるという苦しい時期を過ごしました。そして、伝える仕事だけで生きていけるのはごく一部だと気づき、それでも伝える仕事をライフワークにしたいと思い、元アナウンサーのセカンドキャリアを広げようと思い、起業しました」(同)

「元女子アナ社外取締役」増加の裏にある、女子アナのセカンドキャリア問題
「元女子アナ社外取締役」増加の裏にある、女子アナのセカンドキャリア問題の画像2

地方局アナの強みを生かしたセカンドキャリアを

 そこで注目したのは、地方局時代に培ったマルチなスキルと人脈だった。

アナウンサーはメディアがどんな話題を欲しがっているのかがわかり、企業とテレビ局をつなぐこともできる。そのため、企業側の足りないピースを埋めることができる人材というわけだ。

 「まずは自分たちがアナウンサーとして培った『伝える力・見せる力』を教えようと思い、トークナビでは、企業向けの講演会やビジネス研修からスタートしました」

 その後、2019年に始めた「女子アナ広報室」が好評を得ている。女性アナが企業を取材し、プレスリリースを作成。さらにテレビ局や新聞社に売り込んでくれるというサービスだ。女性アナが広報代行を行うことでメディアの取材を獲得しやすくなる効果が注目を集め、実績は1400件以上にものぼる。

 「さまざまな企業様の広報サポートをしてきましたが、おもしろかったのは、ある建設会社さんです。業界のネガティブなイメージを払拭しようといろいろな取り組みをされている会社で、私たちがサポートしたことでメディアに取り上げられて以降、地元で有名になり、今ではその会社さんに直接の取材依頼が行くようになりました」(同)

 こうした好例が呼び水となり、広報やPRの重要性を認識した企業からの依頼が続いているという。

 「クライアント企業に出向する元アナウンサーは、弊社の広報育成講座を受講し、検定に合格した人のみです。この講座を受けられるのは、3カ月に1度開催される採用試験をパスした人のみ。このオーディションにも、全国から毎日のように応募が届いてます」(同)

 元地方局女性アナは、スキルが高く、ポテンシャルを秘めている。「女子アナ広報室」のサービスが好評なのは、そんな原石ともいえる人材が集まっているからだろう。

 「『女子アナ広報室』というサービス自体は好調ですが、現時点では、決して女性アナウンサーのセカンドキャリアが明るいわけではありません。今後も新事業を創っていき、特に地方局の女性アナウンサーの参考となるようなロールモデルを増やしていきたいですね」(同)

「元女子アナ社外取締役」増加の裏にある、女子アナのセカンドキャリア問題
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