イラスト/渡辺裕子

 第25週、時代も万太郎(神木隆之介)に関わる人たちもどんどん変わり、物語が終わろうとしていると実感しました。そんなに早く進まないでと、袖を引っ張って止めたい気分。

長い間槙野家を見守ってくれたりん(安藤玉恵)が、十徳長屋の差配人を千歳(遠藤さくら)に譲って去っていくのは、おめでたいことだけどやっぱりさみしい。万太郎たちにこれまでのことを感謝されて「こちらこそなんだよ」と涙目で返す彼女、にぎやかな子どもたちの成長に、どれだけ幸せをもらってきたんだろう。これからは家主さんとふたりでの幸せを重ねていくんでしょうね。それにしても、万太郎が壁をぶち抜いたり印刷機を置いたりと好き放題するのを許した優しい家主さん、どんな方だったんでしょうか。

 万太郎自身も、植物学教室を去ることに。徳永教授(田中哲司)が言うように、神社合祀令から目を背けて大学で仕事を続ける道もあった。

しかし万太郎は、変わらない人。植物が失われていくのは、国からの命令であっても許せない人。辞表を出した時、徳永教授の背後には国旗があり、万太郎の後ろには花があるのが象徴的でした。でも徳永教授が昔と変わってしまったのかというと、そうではなく、彼の中には大好きな万葉集がずっとある。そして「この雪の 消残る時に いざ行かな」と上の句を言えば、すぐに「山橘の…」と下の句を返す万太郎のことも、彼の植物画のすばらしさも、大切に思っている。それでも国に逆らえない立場になってしまった徳永教授の悲哀。
沈黙する大学を尻目に、南方熊楠の反対運動は世論を動かし、神社の森の一部は残る。これは、反対運動は無駄ではないという、明治の世からのメッセージでしょうか。去る万太郎と入れ違いで大学にやってきた佑一郎(中村蒼)も、万太郎と同じ、変わらない人。どんなに偉くなっても現場の人々を大事にする人。仁淀川からずっと、万太郎とは違う道を、同じゴールに向かって走っている。彼なら、あの後で大学を変えたかもしれませんね。

 時代は明治から大正となり、虎鉄(濱田龍臣)と千歳の結婚、万太郎たちの孫となる虎太郎の成長といううれしい変化もある。そして、望んでいないのに巻き込まれて変わらざるを得ない、天災というものもある。関東大震災、あの揺れの中で調理中の火に水をかけて消した寿恵子はさすがだし、今にも崩れそうな長屋から標本を救い出す万太郎もさすが。というか、私なら絶対止めちゃう、あんな燃えやすいものを背負って避難するなんてやめて、と。でも止めても聞かないのが万太郎なことも、彼が命より大切にしているのが植物学と標本なことも知っているから、止められない。

 そして、震災も怖いけれど、人の心も怖い。

苦労して避難した渋谷から、武装した自警団が待ち構える東京市内まで、また残りの標本を取りにいく万太郎(ここはほんとに止めたかったー)。「根津の十徳長屋へ」のひと言で自警団に通行を許される恐ろしいシーンの後にたどり着いた長屋では、あとは印刷所に持っていくばかりで完成間近だった図鑑の原稿も、標本も、ほとんど失われ、40年の努力が、無に。そんな万太郎を元気づけるのはやっぱり植物、瓦礫の中でたくましく咲いたムラサキカタバミ。「生きて根をはっちゅうかぎり、花はまた咲く」。こんな時こそ、植物を見たうれしさを誰かに渡していきたいと、また最初から図鑑のための原稿を書き始める万太郎、変わる世界の中でどこまでも変わらない人。

 ずっと変わらないのは、万太郎と寿恵子の愛も同じ。

「好きです。あなたが。心から」「わしの心を照らすがは、いつでも寿恵ちゃんだけじゃ」……なんて美しいラブシーン。そして寿恵子は料亭を売り払い、広い広い練馬の土地を、万太郎のために購入する。ここからまた大冒険とは、さすが寿恵子。最終週のタイトルは「スエコザサ」。
かつて「寿恵ちゃんは笹のような人」とほめたたえた万太郎。笹のように強くしなやかな寿恵子の冒険の行方を、万太郎と一緒に見届けます……タイトルを見ただけで泣きそうですが。

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日刊サイゾー2023.08.28

■番組情報
NHK連続テレビ小説『らんまん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳佐久間由衣、笠松将、中村里帆、島崎和歌子、寺脇康文、広末涼子松坂慶子牧瀬里穂宮澤エマ、池内万作、大東駿介成海璃子、池田鉄洋、安藤玉恵、山谷花純、中村蒼、田辺誠一いとうせいこうほか
作:長田育恵
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん「愛の花」
語り:宮﨑あおい
制作統括:松川博敬
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
植物監修:田中伸幸
制作:NHK
公式サイト:nhk.jp/ranman