(写真/Getty Imagesより)

 現在の地上波テレビにおいて、頻繁に特集されるのが「昭和カルチャー」だ。その切り口としては、主に令和のカルチャーと比較し、ポジティブな側面とネガティブな側面の両方にスポットを当て、「昭和は今では考えられない時代だった」と振り返るものが多い。

 たとえば、2月20日のTBS系『マツコの知らない世界』では、歌手のJUJUをゲストに迎え「昭和歌謡の世界」を特集。特に“人間の本性がむき出しになっている”歌詞に注目し、数々の昭和の名曲を紹介した。

 JUJUいわく「タイトルから(今の時代では)ダメ」という奥村チヨ「恋の奴隷」、既婚男性を愛した女性の気持ちを歌った島津ゆたか「ホテル」など、コンプライアンス遵守の流れがある令和の時代では、成立しないような名曲を次々とピックアップした。

 TBS系で放送中のドラマ『不適切にもほどがある!』もまた、昭和カルチャーが存分に登場する。1986年に生きる男性中学校教師・小川市郎(阿部サダヲ)が2024年にタイムスリップし、令和の世の中では“不適切”とされる、昭和の価値観に基づいた言動を繰り返すという物語だ。

 “不適切”な表現については、〈時代による文化・風俗の変遷とその是非を問うということを主題にしているため あえて1986年当時のまま放送します〉などといったテロップが入るのが恒例となっている。

 このような「昭和カルチャー」が取り上げられる地上波の番組が多い背景について、テレビ局関係者はこう話す。

「まずひとつあるのが、今の地上波テレビのメイン視聴者層が40代以上の昭和生まれだということ。その世代の視聴者が懐かしいと感じられるような内容にすることで、それなりの支持が得られます。とはいいながらも、若い視聴者層を無視するわけにはいかない。Z世代と昭和世代を戦わせたり、令和カルチャーと昭和カルチャー、あるいは平成カルチャーを比較したりする番組が急増しているのは、こういう背景があります」

 また、令和の地上波テレビでは難しい“刺激的な表現”を必然性のある形で放送できるメリットもあるという。

「バラエティーでもドラマでも、コンプラを意識した結果、どうしてもマイルドな表現になってしまう。

それに対して“昔は良かった”とか、“ネット配信には勝てない”みたいな意見を言われることも多いんですよ。地上波の制作スタッフとしてはそこにもどかしさを感じていて、どうにかしてできるだけ過激な表現を放送したいという思いがある。そういったなかで、“これは昭和の表現です”という前提があれば、当時のものとして過激な表現を放送できる。当時の映像をそのまま流すのも許されるし、再現VTRという形で過激な内容を放送することも可能です。特にエロ表現などは“昭和のもの”という注釈さえあれば、かなりハードルが下がるんですよね。仮に批判の声があがっても“これは昭和の表現を紹介しただけだから”ということで、言い訳もできる。
令和のテレビスタッフにとって、“昭和カルチャー研究”という題材は、コンプライアンスを上手く切り抜けるための手段になっている部分もあります」(同)

 さらに、過去のVTRを活用した企画であれば、制作費を節約することも可能だ。

「そもそも“懐かしの番組”系の企画は安定の人気ですし、基本的にはそれをただ紹介するだけである程度成立するので、そこまで画期的なアイディアもいらない。すでにある映像素材で時間を埋めることができるので、制作費も少なくて済む。必ずしも潤沢な予算や製作時間があるわけではない今の地上波テレビにとって、昭和カルチャーネタはメリットが多い」(同)

 しかし、刺激的な昭和カルチャーに頼っているだけでは、結局「昭和は良かった」「令和はダメだ」となってしまう可能性も高い。制作会社スタッフは、今の状況に危機感を抱いている。

「たとえば『不適切にもほどがある!』は、昭和カルチャーと令和カルチャーの双方の良い点・悪い点を浮き彫りにしている内容ではあるものの、視聴者からの反応はというと〈昭和が良かった〉といったものが多い印象です。

本来は昭和世代へのアップデートを促す側面もあるドラマなのに、そんなに伝わっていない現状があります。たしかに刺激的な映像は魅力的かつ効果的です。しかし、上手く令和の価値観の中に落とし込んでいく必要があるはずなのに、現時点ではまだできていない。今はまだ昭和カルチャーが懐かしくて珍しいものとして楽しまれていますが、近いうちに飽きられてしまう可能性も高い。そうなったら、令和の地上波テレビもいよいよ終わってしまいます。昭和カルチャーの魅力を紹介するだけではない、もっと今の時代との融合を意識した切り口が必要です」

「昭和カルチャー」は、令和の地上波テレビを救うのか、それともとどめを刺してしまうのか。