日本テレビ

 昨年10月期に放送された日本テレビドラマ『セクシー田中さん』の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが亡くなった問題で、映像化における「原作改変」に関する取り決めなどについて、版元の小学館と日テレが契約書を交わしていなかったことが明かされた。これをきっかけに日本の出版界やテレビ業界で浸透している「口約束文化」がクローズアップされ、その是非をめぐって議論が起きている。

 日テレは26日の定例会見で、23日から社内特別調査チームによる調査を開始したと報告すると共に契約の詳細に言及した。

 日テレ側によると、ドラマ化にあたっては「できあがった作品の二次利用などについては契約を結ぶが、ドラマ制作の詳細についての契約書は存在しない」「法律に基づいた枠組みでの了解は当然あるが、約束事を文書で取り交わしているわけではない」という。作品の同一性保持権などを含んだ著作者人格権に関わる契約については、包括的な「原作契約書」で扱いが基本的に規定されるが、個別のドラマ演出などの約束に関する契約書は存在しないようだ。そうした形式は業界で一般的だという。

 『セクシー田中さん』をめぐっては、1月に芦原さんが小学館を代理人として「原作に忠実にドラマ化するよう取り決めた」はずが制作サイドに反故にされ、ストーリーやキャラクターなどに大きな「改変」があったため、最終2話の脚本を自ら書かざるを得なくなったことなどを告白。その3日後に芦原さんは亡くなった。

 小学館は今月8日に出した声明で「映像化については、芦原先生のご要望を担当グループがドラマ制作サイドに、誠実、忠実に伝え、制作されました」としているが、日テレ側の説明通りなら、正式な「契約」という形にすることはなかったようだ。「口約束」であっても契約は成立するが、現実的には強制力があまり期待できないため、原作者の意向が無視されやすい状況につながった可能性がある。

 これに対して、SNS上では「ただ伝えただけなら、小学館は原作者の代理人の役目を果たせていない」「結果として原作者の意向が無視されたんだから、小学館は要望を伝えた意味がないし、それを聞き入れなかった日テレもどうかと思う」といった厳しい声が相次いだ。大企業同士のビジネスなのに「細かい取り決めについては口約束だけで契約書がない」という、業界の慣習に驚いた人も多いようだ。

 その一方で「出版とかテレビとかの業界は口約束が当たり前だから」「日本だといちいち契約を結ぶという文化がない」「広告業界とかも金額が小さければ口約束で、信頼関係で成り立っている。だからこそ、約束を破った時のペナルティが大きい」といった意見もあり、議論となっているようだ。

 「契約社会」といわれるアメリカでは、コミックなどの映像化について、一次利用の詳細な約束事から二次利用の細かな取り決めまで一括して契約で決めることが大半。そのため、契約書の作成だけで数カ月~1年以上かかることも珍しくないが、契約が絶対なので契約締結後のトラブルはほとんどない。

 一方、日本の場合はスピード感や手間の削減などの観点からか、細かいところは口約束で進めて問題があったらその都度協議するという方法が主流だ。しかし、そうした口約束文化は今回の一件によって「原作者の尊厳を軽んじる」「企業側に有利で原作者が泣き寝入りになりやすい」といった問題が起きやすいのではないかと指摘され始めている。

 「アメリカのような契約社会にすべき」という声も上がっているが、今回の問題はテレビ業界や出版界に大きな変革をもたらす可能性もありそうだ。