第1話 初回拡大スペシャル「電撃ウィッチの魔法」 | TVer

「この化け物と同じ時代に生まれた限り、僕はおそらく作り手として一生、自分に満足できない気がする……」

『イップス』で脚本を担当しているオークラは、著書『自意識とコメディの日々』(太田出版)の中で、主演のバカリズムについてこう書いています。1990年代後半から2000年代前半の東京のお笑いライブシーンのド真ん中には、この2人がいました。

 オークラがバナナマン、ラーメンズ、おぎやはぎ、東京03らと次々に斬新なユニットコントを生み出していた一方、コンビを解散し、孤高を貫いていたバカリズム。2人が仕事を共にしたのは、実質的には14年のドラマ『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)の共同脚本を待たなければなりませんでした。このドラマで脚本家としての評価を確かにしたバカリズムはその後、『架空OL日記』(読売テレビ)でテレビドラマ界の最高栄誉である向田邦子賞を受けることになります。

 そのきっかけを作った『素敵な選TAXI』の演出は筧昌也。今回の『イップス』でも演出を担当しています。

 今回はオークラの単独脚本で、バカリズムを動かす。

それは渋谷シアターDの舞台裏、狭すぎる楽屋で肩を触れ合わせながらすれ違っていた2人にとって、実に30年越しの大河ドラマなわけで、そりゃ見方は甘くなっちゃうよなぁとハードルを下げつつスタートです。

 振り返りましょう。

■スタンダードな倒叙もののようです

 本作は、ミステリーの中でも最初に犯人を視聴者に明かしてから謎解きを見せるという、「倒叙もの」と呼ばれるスタイルを採用しています。『刑事コロンボ』がやっていたやつですが、『古畑任三郎』のやつといったほうが通りがいいかもしれません。

 主人公はミステリー作家として売れっ子だったものの、最近は全然書けないでワイドショーのコメンテーターなんかをしている黒羽ミコ(篠原涼子)と、警視庁捜査一課の敏腕刑事ながら最近は事件を解決しようとすると「ううっ」となっちゃって検挙率が下がっている森野徹(バカリズム)。森野はもともとミコさんの小説のファンでしたが、最近ではSNSにミコさんへのアンチコメントを連投するなど、暇をもてあましている様子。ミコさんはエゴサしてそのアンチコメントも確認済みです。

 そんな2人がサウナで偶然隣り合わせ、その施設で偶然殺人事件が発生するというお話でした。

■楽しくはある、とても

 アンチ化した小説家のファンと、その小説家がバディになっていく過程は会話劇としてのテンポもよく、不自然さは感じませんでした。

 森野が、犯人を確信した瞬間に表情をなくして現場を去っていくシーンなど、キャラクターとしての深みを感じさせる場面もあったし、一方で「刑事ドラマの刑事は走るもんだろ」というバカリズム全力疾走(遅い)は、とても楽しかったです。

 ワイドショーのMCが東京03・角田晃広だったり、サウナの店長が元・地球のマグ万平だったりと、お笑いファンに向けての目配せも抜かりないですし、今回の犯人だった熱波師・電撃ウィッチ麻尋(トリンドル玲奈)の造形もドンピシャだったと思います。

 総じて、楽しくはあるんです、とても。

■ミステリーとして見ちゃうと、今回は厳しい

 一方でトリックを楽しむミステリーとして見ちゃうと、今回の謎はちょっと厳しいなと感じたのも事実です。

 被害者を水風呂に誘導してスタンガンで失神させ、溺死させるというトリックでした。

現場の刑事はこれを事故として処理しようとしたところ、ミコさんと森野が殺人事件と断定して取り調べをするという流れ。

 まず被害者の首に明らかに強力なスタンガンでしかつかない新しい火傷の痕があるのに警察が(鑑識も呼んでるのに)事故と断定するのは不自然ですし、「スタンガンを当てたら自分も感電するか、しないか」が謎解きのキーになるのも弱いなと思います。

 結果としては、純水は絶縁体だからサウナの水風呂に事前に買い込んだ純水を満たしていたという設定でしたが、ざっと見積もってあの水風呂は3メートル×5メートル×深さ50cmくらい。7.5立方メートルとすると7,500リットルの純水が必要になります。純水は1リットル100円くらいですので、75万円くらい。これは電撃ウィッチは被害者から100万円を要求されていたのでまあいいとしても、7.5トンの水を薬局からサウナの屋上に運ぶというのは、ちょっと現実的ではない。

 そして、そもそも純水を満たさなくても、被害者を水風呂に誘導して床のところからスタンガンを当てることもできそうなんです。スタンガン、長いし。

 つまりは被害者を殺すために電撃ウィッチが水風呂の中に入らなければならなかったという、必然性がない。必然性がないところにトリックのキーを置いてしまうと、謎解きに爽快感がない。

 ミステリーの楽しさって、まずは謎が解かれたときに「納得感」という爽快があること、その上でトリックに人の感情が乗っていることだと思うんですよね。この人が、この殺し方を選んだことや、謎解きにつながるミスにその人の“ニン”が乗っていること。

例えば『古畑』でいうところの、沢口靖子が部屋のドアを閉め切らなかった理由とか、そういうところでミステリーとしてはちょっと弱かったなぁというのが第1話の正直な感想でした。そういうところで勝負してないのはわかるけど、見る側は勝手に見るのでね。

 あと、これは『イップス』ではなく『スランプ』なのでは? という違和感もあったりなかったり。

 見方は甘くなっちゃうなぁと思っていたけど、そうでもなかったみたい。次回も楽しみです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)