2月7日に開催された、アメリカ最大のスポーツイベント『スーパーボウル』のハーフタイムショーでメインパフォーマーを務めた英ロックバンド「コールドプレイ」のボーカル、クリス・マーティンが、コラボパフォーマーとして出演したビヨンセに、コラボ曲を「最悪」だと却下されていたことを激白。ビヨンセは、物議を醸している新曲「Formation」を発売したばかりで、さらなるバッシングが巻き起こっている。



 『スーパーボウル』前日の6日に突如発売した、新曲「Formation」の歌詞があまりにもヤバいと波紋を呼んでいるビヨンセ。「アタシがどんだけ懸命に働いて、金を稼いでると思ってんの」「彼にフ●ックで満足させてもらった後は、(シーフードレストランの)レッド・ロブスターでおごってあげるの」という18禁な歌詞だけでなく、冒頭で流れる「ニューオーリンズ(※)でなにが起こったのか、わかってんのか? ビッチ、ご期待に応えて戻ってきたぜ」という人気黒人ラッパーのメッシー・マイアのセリフが黒人差別を訴えている、と衝撃が広がっているのだ。ほかにも、「アタシ、自分の黒人っぽい鼻、気に入ってんの。ジャクソン5とおそろいよ」と歌うなど、「Formation」は黒人賛美の内容に仕上がっている。

 同曲のミュージックビデオには、警察官が黒人を撃ち殺すことへの非難を表すシーンもあり、多くの白人ファンが「ビヨンセが人種差別についてここまではっきり表現するなんて……」とショックを受け、憤りさえ感じていると現地メディアは報じている。

 ビヨンセはハーフタイムショーに、1993年、マイケル・ジャクソンが同ショーでパフォーマンスした際に着用していた衣装とそっくりの衣装で登場し、この「Formation」を熱唱。
ダンサーたちは、60年代後半から70年代半ばにかけて活動していた黒人解放武装組織「ブラックパンサー党」を思わせる衣装を着ており、差別を受け続けているアメリカン・アフリカンへのオマージュだとネット上は騒然。

 歌詞を聞いていなかった白人たちは試合終了後にやっと気がつき、「なにこれ? 白人を非難してるの?」「警察官にエスコートしてもらって会場入りしたくせに、警察官に黒人撃つなって歌ったり」と大騒ぎ。元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニも、「全を楽しませるエンターテインメントショーを演壇として利用するなんて非常識だ。警察官を非難するなんてとんでもない。白人だけじゃなく、黒人だってほかの人種だって、命を懸けて守ってくれているのに」と厳しく責める騒ぎに発展している。

 これまで女性の強さや、愛といったハッピーソングを歌ってきたのに、どぎつい人種差別ソングを歌うハードコアなシンガーに変貌してしまったビヨンセ。


 そんな中、クリスが米大手音楽誌「ローリングストーン」最新号のインタビューで、「ビヨンセとコラボしようと思って曲を作ったんだけど、“最悪”だと却下された」と暴露したのだ。クリスは、「ビヨンセとコラボしようと思って、『Hook Up』という曲を書き上げた。そして、スタジオに彼女とプロデュースチーム「スターゲイト」のメンバーを招いて披露したんだけど、ビヨンセに断られてしまった」と告白。「彼女は、ものすごく言葉を選んでくれてね。できるだけスイートな感じに断りたかったんだろうね」と皮肉りながら、「こう言われたんだよ。“あなたのことは好きだけど……これは最悪だわ”」。


 その後、クリスは「Hymn For The Weekend」を書き上げ、ビヨンセはこの曲をコラボすることを了承。今年1月にリリースされた同曲のミュージックビデオにも出演している。ちなみに、「Hymn For The Weekend」で、ビヨンセは「人生に絶望する男を救い、勇気づける天使」という設定で、ミュージックビデオにもインド神話の女神のような格好で登場。「Hook Up」の歌詞は公開されていないが、「いちゃつく、体の関係を持つ」という意味があるため、コテコテのラブソングである可能性が高い。「Formation」で人種差別糾弾モードに入っていたビヨンセとしては、白人とのコテコテのラブソングなど「とんでもない」と思い却下したのだろう、とネット上で大騒ぎに。

 とはいえ、大物アーティストが自分のために書いてくれた曲をビヨンセが却下するのは、これが初めてではない。
昨年12月に、シンガーソングライターのシーアも「ローリングストーン」のインタビューで、「ビヨンセに提供する曲作りのため、ハンプトンズの家に5人のプロデューサーと5人のトップライン・ライターと長期間缶詰めになった。ビヨンセの気持ちを聞きながら25曲作り上げてね。ビヨンセは曲作りに関してはフランケンシュタインみたいでね、“ここと、あれと、これを合わせて”って(切り貼りを)指示するの。で、25曲のうち、1曲がアルバムに採用されたのよ」と告白。つまり、ビヨンセはシーアが作った24曲もの作品を却下していたのである。

 ビヨンセは、ハーフタイムショー終了後、バックステージで受けた米芸能チャンネル「ET」の取材に対して、「『Formation』にみんながクレイジーになっていること、光栄だわ。
みんなに気持ちよくなってもらいたい、誇りを持ってもらいたいと思って作った曲だから」とコメント。「ハーフタイムショー」については、「一番よかったのは、バックステージからコールドプレイのショーを見られたことね。最高だったわ」と、彼らを持ち上げていた。

 インタビューでは相変わらず優等生だが、新曲では政治的なメッセージを色濃く残したビヨンセ。かつてないほどバッシングが強い今、彼女が今後どういった路線を進むのかに注目が集まっている。

※ニューオーリンズでは、2005年にハリケーン・カトリーナの甚大な被害をこうむった際、黒人差別を起因とする救助活動の不手際があり、被害が拡大した。
さらに、もともと黒人貧困層が多かったために略奪などの二次被害も。それ以降、黒人差別を象徴する地になったといわれている。