北朝鮮の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は、3月24日付の記事「党政策の要求通りに地域特性のある新製品開発に拍車を──20の市・郡に新設された食品工場にて」の中で、「山に近い地域では山を、海に近い地域では海を活用せよ」とする党の方針のもと、各地の食品工場で地域資源を活かした製品の開発と生産が進んでいると報じた。

これは、金正恩総書記が掲げる「地方発展20×10政策」に基づく取り組みの一環であり、首都・平壌と地方の経済格差是正を目的としている。

しかし、政策の成果として建設された地方工業工場は、現実にはほとんど機能していない。

デイリーNKの平安北道の情報筋によると、道内の亀城、球場、雲山に工場が新設され、すでに竣工式も行われた。国は試作品を紹介し、工場が「正常に稼働している」と大々的に宣伝しているが、住民の生活に目に見える変化はない。

労働新聞に掲載された雲山郡の工場の写真には、食品、衣料、日用品の各工場が建設された様子が映っている。同紙は、「雲山郡のブランドを冠した製品が次々と溢れ出し、式典参加者は感動の声を上げた」と報じた。

しかし、実際には「工場ができる前と後で何も変わらない」という声が住民の間に広がっている。以下は、情報筋が伝える住民の声である。

「派手に竣工式をやったのに、製品が溢れ出すどころか、どこにも見当たらない」
「特別な製品が欲しいわけじゃない。ただ、味噌や醤油が十分に手に入ればそれでいい」

工場で作られた製品は軍部隊や突撃隊、労働者宿舎、物資供給所に優先供給され、一般住民が手にするには工場職員が横流しした品を裏ルートで入手するしかない。結局、従来の「なしくずし的市場経済化」と構図は変わらない。

さらに工場では、政治行事の準備、衛生活動、植樹、政治学習などに多くの時間が費やされ、生産活動は後回しにされている。

情報筋はこう話す。



「2月の光明星節(故・金正日総書記の生誕記念日)と4月の太陽節(故・金日成主席の生誕記念日)にあわせ、忠誠の歌集会や国土整備、植樹などの社会的動員が予定されている。それらが終われば、従業員は原料確保のために副業地へ動員されるだろう」

当局の姿勢についても次のように指摘する。

「限られた原料を節約しながら、最低限の生産だけを行い、工場が“稼働しているように見せる”ことが目的だ。工場幹部にとっては、実際の生産量よりも外部に“稼働中”とアピールするほうが重要で、原料を確保でき次第、都合のいいタイミングで生産を調整している」

こうした「見せかけ」の工場建設は、地方住民の生活改善には結びついていない。

情報筋は最後にこう語っている。
「工場ができたからといって、味噌や醤油、油の原料が勝手に湧いてくるわけじゃない。住民たちは、結局は見せかけの建設にばかり力を入れていると冷ややかに見ている」

金正恩氏の肝いり政策である以上、当面は“稼働しているふり”が続くだろうが、意欲も資金も時間とともに尽きていく。こうして各地に、“国営巨大ハリボテ”がまた一つ、また一つと増えていく。

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