金正恩が「斬首作戦」で排除された瞬間、北朝鮮の核ミサイルが自動的に飛び立つ――そんな“悪夢のシナリオ”の可能性を指摘する見方が出てきた。
韓国のシンクタンク「サンド研究所」傘下のメディア「サンドタイムズ」は、全成勳(チョン・ソンフン)元統一研究院長が世宗研究所に寄稿した文章を引用し、北朝鮮で旧ソ連の「死の手(Dead Hand)」システムに類似した核報復体制が構築された可能性が高いと伝えた。
全氏は「北朝鮮が2022年9月の最高人民会議で採択した『核武力政策法令』には、事実上、半自動化された報復体制を念頭に置いた条項が含まれている」とし、「先端的なロシア式システムではないにせよ、北朝鮮版『死の手』を作った可能性を排除できない」と指摘した。
同法令第3条3項は「国家核武力指揮統制体系が敵対勢力の攻撃で危険にさらされた場合、事前に決定された作戦方案に従い、核打撃が自動的に即時断行される」と規定しており、全氏はこれを「指導部壊滅時の自動報復」を想定したものと解釈した。
北朝鮮はその後、2023年と2024年に核反撃仮想総合戦術訓練を行い、「核攻撃命令認証手続き」と「発射承認体制」を点検したと公表した。特に「火山警報体系」という国家最大の核危機警報システムまで稼働させた点から、核運用指揮体系の多重化・半自動化の可能性が明確に示されたと評価されている。
米国も北朝鮮の核報復能力を注視している。エルブリッジ・コルビー米国防総省政策次官はVOAのインタビューで「北朝鮮が指導部除去の状況でも自動報復システムを作動できると仮定すべきだ」とし、「もし米国が北朝鮮指導部を斬首しようとするなら、北朝鮮は制約なく米本土を攻撃する可能性がある」と警告した。
軍事専門家らは、北朝鮮版「死の手」の可能性が提起される中、韓国軍の斬首作戦概念(KMPR・大量懲罰報復)の再検討が不可避だと指摘する。特に、核保有国を相手に指導部除去を試みることは戦略的にも歴史的にも成功例がほとんどないため、リスクが大きいというのだ。
全元院長は「斬首作戦は抑止力の象徴的カードとして維持できるが、公然と取り上げることはむしろ逆効果になり得る」とし、「北朝鮮が核報復体制を備えているなら、『倍返しどころか何十倍の報復』という結果を招きかねない」と強調した。