北朝鮮の国家保衛省は、ロシアに派遣していた保衛員2人を平壌に召還し、降格・左遷などの厳しい処分を下していたことが明らかになった。処分の背景には、現地の北朝鮮労働者による内部告発と、国家による思想統制の再強化という側面がある。
デイリーNKの北朝鮮内部情報筋によれば、国家保衛省のハン・グァンジン氏は1月中旬、ソン・ミョンナム氏は3月末にそれぞれ緊急召還された。名目上は「定期総和(活動総括)」だったが、荷物さえ持たずに帰国させられた実態から、事実上の逮捕・拘束に近い処分だったという。
北朝鮮当局は、ロシア現地の建設現場に派遣されていた自国労働者から、国家保衛員の不正行為について多数の信訴(内部告発)を受けていた。調査の結果、ハン氏とソン氏は、①労働者への金銭恐喝や暴言、②私的な外貨送金や家族扶養を目的とした資金流用、③ロシア人ブローカーとの癒着、④内部告発者への脅迫――など、深刻な人権侵害と不正行為に関与していた疑いが持たれている。
国家保衛省本部の隔離施設で尋問を受けた2人のうち、ソン氏は一部の不正を認めたが、ハン氏は正当な職務だったと主張。だが、いずれも省内では「自己正当化のリスクが高い人物」との評価が下されたという。
結果として2人は「保衛戦士」としての資格を剥奪され、ソン氏は地方の後方基地(補給部署)に左遷、ハン氏は私服勤務に転換された。また、両人とも「海外派遣不可者」、「長期思想教養対象者」に指定された。
2人はいずれも中央党幹部とのコネや良好な出自(成分)を持っていたが、国家保衛省は組織の威信と思想統制の再確立を優先し、異例ともいえる重い処分に踏み切った。
デイリーNKは、同様にロシアに派遣されていた保衛員のチェ・ソンチョル氏が不正行為を働いていたと、北朝鮮出身派遣労働者からの情報提供に基づいて報じた。それ以降、当局内では「敵のメディアに不正が露呈することこそリスク」との認識が強まっており、今回の処分は「第2のチェ事件」阻止の意味合いもあるとされる。
国家保衛省は現在、全国の保衛機関に「信訴・請願への迅速対応と監視体制の強化」を指示し、保衛員の選抜基準も「労働者との信頼関係」を軸に見直したという。
「保衛員の人格問題が体制安定に対する潜在的な脅威」とみなされ始めた今、北朝鮮内部の緊張感はさらに高まっている。