北朝鮮で豪華リゾート「元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区」(以下:元山葛麻リゾート)が1日、開業した。計2万人を収容できる豪華ホテル郡や水上コテージなど、金正恩総書記「肝いりプロジェクト」と言われるだけのことはある。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は2日、元山葛麻リゾートの開業と「初日から多数の客が滞在」などと北朝鮮国内の観光客が楽しむ様子を報じたが、今後は海外からの観光客を招いて外貨を稼ぎたいはずだ。金正恩氏も「国家の全般的な経済成長に寄与する原動力として大きな将来的意義を持つ」と述べながら期待感を示したが、閉鎖的な北朝鮮にリゾートで訪れるのはロシア・中国の富裕層、またはよほどの物好きぐらいしかいない。
金正恩氏が元山葛麻リゾート開発に力を注ぐ裏には外貨稼ぎとは違う別の思惑があると筆者は見ている。
元山は金正恩氏の出生地だ。また、大阪生まれの在日朝鮮人帰国者・高容姫(コ・ヨンヒ)氏と過ごした地である。亡母との思い出が詰まった地を名所にする、そのうえで金正恩伝説の出発点としして「聖地」にするつもりではないだろうか。
北朝鮮で聖地といえば、金正恩の祖父・金日成主席がパルチザン活動の本拠地とし、父・金正日国防委員長の出生地(虚偽)である白頭山の麓に位置する三池淵市だ。金正恩氏は昨年7月11、12日と聖地である白頭山の麓・三池淵市を訪れたが、ホテルの出来映えがに満足できず激怒。大臣クラスの幹部が処分を受けたことから、三池淵のイメージはがた落ちだ。
一方、直後の7月16日に元山葛麻を視察し、「海辺特有のあの景観を見ただけでも心身共にスッキリする」と述べた。まるで聖地・三池淵での激怒が葛麻で収まったといわんばかりだ。同年12月29日、金正恩氏はジュエ氏と元山葛麻をおとずれ「多くの国の友人らが好んで訪れる朝鮮の名勝、世界的な名所としての魅力的な名声を馳せる」と豪語しながら元山を持ち上げた。
先月24日の竣工式で、金正恩氏は歓喜の様子を見せ記念公演では感涙した。一方、激怒の聖地・三池淵は昨年7月以後訪れておらず、メディアに取り上げられ報じられることも激減した。
激怒の地・三池淵と歓喜と感涙の地・元山葛麻の明暗はくっきり分かれるなか、金正恩氏は元山こそが三池淵に代わる新・聖地だというメッセージを出しながら、新たな金正恩伝説をジュエ氏や次の世代に伝えようとしていると筆者は見ている。