中国・遼寧省の丹東は、鴨緑江を挟んで北朝鮮・新義州と向かい合う国境都市だ。観光客が川越しに北朝鮮を見物する「国境観光」で知られるが、実は北朝鮮側にも中国を見物するための遊覧船が存在する。

著しい電力不足で暗い北朝鮮に住む人々にとって、ネオンが輝く丹東市街地や、郊外の街灯ですら憧れの対象だ。当局は「その光に惑わされるな」と思想教育を行っているが、それ自体が憧れが実在することを証明している。

北朝鮮・新義州の遊覧船ビジネスは、鴨緑江遊園地管理所の名義で運航されている。しかし、実際の運営資金や船の整備費、燃料費はトンジュ(金主、いわゆる新興富裕層)が負担しており、収益の一部を管理所に上納する形だ。生産手段の私有が禁止されている北朝鮮では、こうした名義貸しによる「擬似民営」が広く見られる。

乗船料は1人2万北朝鮮ウォン(約120円)で、公民証(身分証)を提示すれば誰でも利用できる。ただし、新義州を訪れるには特別な「旅行証」(国内用パスポート)が必要で、実質的に当局のフィルターを通過した人のみが乗船できる。

加えて、200元(約4500円)を支払えば、グループ単位で船を貸し切り運航することも可能だ。結婚式の二次会や親睦会、歓楽目的の利用も過去には頻繁に見られた。

特別なイベント時には、「功労者」とされた動員労働者が無料で乗船できることもある。たとえば、太陽節(4月15日)や労働節(5月1日)などの記念日が該当する。

とはいえ、乗客数は近年急減。

田植え戦闘(農繁期)の動員期間中には、農村に強制的に連れて行かれることを避けるために市街地での行動を控える人が多く、遊覧船も閑散としている。

それでも運航が続く背景には、新義州特有の「体面文化」と娯楽への欲求の高まりがある。地元情報筋は「少し生活に余裕が出てきた人々が娯楽を求め始めている。新義州は他地域よりも生活レベルが高く、見た目や名誉を重視する文化が根付いている」と語っている。

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