北朝鮮プロパガンダの象徴として長年名を馳せた女性アナウンサー、李春姫(リ・チュニ=82)。ピンクのチョゴリ姿で感情豊かにニュースを読み上げるその姿は、「ピンクレディー」の愛称で世界的に知られたが、今、北朝鮮国内では彼女に対する視線が急速に変わりつつあると、韓国のサンドタイムズが報じている。
“英雄”から“厄介者”へ —— 家庭内の不協和音
平壌市内の超高級住宅地・景楼洞(キョンルドン)にある一戸建て。2022年、金正恩総書記が功労者たちに贈ったこの住宅の1階に、李春姫氏は住んでいる。高齢の彼女が階段の昇り降りを避けられるよう、金正恩氏が自ら1階を割り当てるよう指示したという“美談”が当時は称賛された。
だが、蓋を開けてみれば、1階の住環境は「暑くて湿気がひどい」と家族、とくに嫁から不満が噴出。内部の声によれば「1階に住まわされた嫁は不満でたまらない様子」だという。
李春姫は今でも金正恩氏の軍部隊視察や会議など、いわゆる「1号行事」に関するニュース報道を独占。後進の若手アナウンサーにその役割を譲る気配は一切ない。朝鮮中央テレビ内部では「権力欲が深すぎる」「もう辞めるべき年齢なのに、自分だけが1号放送を担当する」「若くて実力のある後輩たちは、どれだけ努力してもチャンスすら与えられない」との不満が高まっているという。
1943年生まれ李春姫は大学で演劇を専攻し、1971年に朝鮮中央テレビのアナウンサーとしてデビューした。北朝鮮国内外の主要行事や重大発表を数多く担当。劇的な表情・声色の変化を使う語り口で知られ、「演技派アナウンサー」と評されている。
今ではテレビ局の経営陣を上回る地位にある。
李春姫はかつて金日成主席や金正日総書記の死を涙ながらに報じ、“国家の声”と称された。しかし今や、その象徴的地位が“頑固な老害”として非難を浴びつつあるようだ。強い自己主張と、後輩たちにチャンスを譲らぬ姿勢が放送局内外で波紋を広げており、「彼女の権威も光を失っている」とサンドタイムズは伝えている。
現地の消息筋によれば、彼女は家庭内でも「嫁の顔色をうかがいながら1階リビングで涼んでいる」とのこと。それでも最高指導者からの寵愛を背景に、誰も引退を勧めることはできない状況だ。
「本人は、なぜそれが問題なのかも分かっていないようだ」と、ある関係者はサンドタイムズに語っている。党が明確に“引き際”を示さない限り、彼女の姿はこれからもカメラの前に映り続けるのかもしれない。