北朝鮮当局が中国吉林省の和竜市に派遣されていた自国労働者による賃金デモを「体制への脅威」と見なし、首謀者を処刑するなど厳しい弾圧を行っていたと韓国のサンドタイムズが伝えた。

事件は2024年1月、中国の衣料工場で発生した。

未払い給与に対する抗議が集団暴動へと発展。北朝鮮当局はは国家安全保衛部(秘密警察)を動員して徹底した鎮圧を図った。

複数の対北消息筋によると、暴動を主導した労働者約200人が拘束されたうえで北朝鮮に送還され、その一部は政治犯収容所に収監、残りは処刑されたというのだ。さらに、抗議に無意識的に加わった者たちも労働教化刑や思想教育、長期拘禁といった処分を受けた。北朝鮮は事件を徹底的に隠蔽し、情報の流出を極度に警戒している。

事件の背景には、数百万ドル規模の賃金未払いがあった。工場を管理していた北朝鮮幹部は「帰国時に一括支給する」として労働者の怒りを抑え込もうとしたが、体制に搾取される構造に不満を抱いていた労働者たちの怒りは頂点に達し、一部では管理者への暴行や工場設備の破壊が発生した。その後、当該幹部は不審死を遂げ、当局は「自殺」と発表したが、真相は不明である。

この騒動は単なる賃金トラブルにとどまらず、コロナ封鎖下で蓄積された不満と、反人権的労働環境に対する抵抗が沸点に達し爆発したものと見られる。特に、現地に派遣された20~30代の女性労働者約2000人は、長期にわたる外出禁止や暴力、強制合宿などに苦しんでいた。結核の集団感染や、うつ病で病院に搬送された者が治療も受けず強制帰還されたとの証言もある。

北朝鮮はこうした事態を再発させないため、秘密警察による監視と取り締まりを強化している。

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍人を民間人に偽装して海外派遣するなど、忠誠心と統制を重視する労働者管理体制を続けている。しかし、派遣労働者の不満は各地で噴出しつつあり、2023年にはアフリカ・コンゴでも暴動が報じられた。

体制に対する盲目的な忠誠よりも、現実の生活と生存を優先する姿勢は「チャンマダン世代」を中心に広がっており、北朝鮮当局にとって深刻な内部リスクとなりつつある。

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