北朝鮮は、ロシアへの派兵中に戦死した北朝鮮軍兵士の遺体を帰還させ、「英雄化」する内部宣伝活動を本格化させている。金正恩総書記が戦死者の棺を手でなでながら涙を浮かべる様子が北朝鮮メディアで公開され、注目を集めている。
デイリーNKの北朝鮮内部情報筋が伝えたところによると、北朝鮮は今年1月から4月にかけて3回にわたり遺体を帰還させた。一部は遺体のまま、一部は火葬された状態で平壌郊外の烈士陵予備区画に一時安置されており、7月27日の「戦勝節(朝鮮戦争休戦協定締結日)」前後に合同埋葬式を行う計画だという。
情報筋は、「今回の埋葬式は単なる追悼行事ではなく、『反帝闘争の最前線で命をささげた戦い』として、朝鮮戦争と同様の思想的位置づけに引き上げる党の意図がある」と指摘。「戦勝節と結び付けることで、彼らを『名誉ある勝利者』として称えるフレームを構築しようとしている」と述べた。
そこではもちろん、十分な準備もなく戦闘に投入された兵士らの悲惨な実態は語られないだろう。
さらに北朝鮮は、「ウクライナ軍が米国に供与された武器を使って攻撃した」という構図を国民への思想教育に利用し、反米感情の強化と体制への忠誠心を高める狙いを見せている。また、金正恩氏が棺に触れる映像は「戦士に対する熱い愛情を象徴し、人民に指導者の人間性を印象づけるための象徴的場面」だとされる。
今年10月に迎える朝鮮労働党創建80周年を前に、戦死者の遺族に対する待遇も宣伝に活用される予定であり、英雄称号の授与や新築住宅の提供、子弟の特別学校入学といった優遇策が講じられる一方、金銭的補償は予定されておらず、待遇は戦闘での貢献度に応じて選別的に与えられるという。
また、今回の遺体帰還と同時に、負傷兵も北朝鮮へ戻されており、現在は専門治療機関で療養中。情報筋によれば、今後は講演団として体験を語る場に登壇させるか、軍の政治指導員に任命するなどの形で体制維持のための政治活動に従事させる方針だという。
しかしその一方、遺族の中からはこうしたやり方に「何の意味があるのか」と反発する声も聞かれる。金正恩氏は戦死者たちの記念碑を建立する方針も示しているが、デイリーNKが取材した派遣兵士のある家族は「名簿も公開せずに、記念碑の話だけ先に出すな。