北朝鮮の首都・平壌は、いわゆる「上級国民」の都市とされている。「成分」と呼ばれる身分制度で高い評価を受けた者しか居住が許されず、訪問さえも厳しく制限されている。
それでも、これまでは多くの「抜け道」が存在していた。だが最近、当局はそれらを封鎖するよう指示を出したと、韓国のシンクタンク「サンド研究所」が運営する『サンドタイムズ』が報じた。
平壌の情報筋によると、国家保衛省(秘密警察)と社会安全省(警察庁)は、「平壌に通じるあらゆる抜け道を封鎖せよ」との命令を出し、特に「10号哨所(検問所)」を回避して通行されていた山道の封鎖に乗り出したという。
「抜け道」とは、旅行証(国内用パスポート)やシリアル番号入りの許可証がない者が、非公式ルートを使って平壌へ出入りする手段のことだ。たとえば、平城市や黄海南道の祥原郡、勝湖里などから山道を経由して平壌に入るルートが使われていた。これらの道は複雑で、地理に詳しいブローカーが金銭を受け取って案内するケースも多かった。
当局はこれら裏ルートの取締りを強化し、検問所の増設も進めている。許可証なしで平壌へ向かおうとした者が、その場で逮捕・収監される事例も報告されている。
この措置は、朝鮮労働党創建80周年記念行事に関連していると見られるが、根本的な目的は、金正恩総書記の身辺警護と平壌の治安維持にあると、情報筋は語る。
正規の手続きを経て平壌に入るのも容易ではない。公務目的でなければ、たとえば家族訪問や観光といった私的理由では、手続きが極めて煩雑になる。
今回の封鎖は、北朝鮮国内での家族への送金にも影響を及ぼしている。脱北して韓国に住む平壌出身者たちは、北朝鮮に残る家族への仕送りが困難になっている。「抜け道」が封鎖されたことで、仕送りを届けるルートが断たれてしまったのだ。
国内のブローカーたちも、いくら高額な手数料を提示されても平壌行きの依頼を拒否している。これは当局が、平壌に住む脱北者の家族に対し「韓国と連絡を取ったり送金を受け取ったりしたことを通報しなければ処罰する」と警告しているためだ。実際、ブローカーが平壌にたどり着いても、住民に通報されて逮捕される事例が起きている。
情報筋は、「この厳戒措置は、金正恩氏の健康問題の可能性も含んだ高度な警備体制と考えられる。また、平壌市内の情報が外部に漏れるのを防ぐ狙いもある」と指摘する。さらに、抜け道を利用して密かに平壌に入り込んだ地方出身の人物によって、同市内で犯罪が発生していたことも背景にあるという。
平壌は、北朝鮮体制の象徴であり、国内外へのプロパガンダの中心地でもある。そのため、自国民と言えども出入りは厳格に管理されている。しかし、制裁と経済難が長引く中で、地方住民による密入市や非公式な取引が増加している。
だが、ほとぼりが冷めればまた元通りになってしまう。文字通り「籠城」したら市民生活に多大な影響が出るからだ。首都・平壌と言えども現実には逆らえないのだ。