北朝鮮はコロナ禍において「非常防疫大戦」を宣言し、鎖国状態で医薬品の輸入が途絶する中でも、全国的に感染防止対策を実施した。

その一環として導入されたのが、全国の薬局に軍人・軍医・軍医大学の学生の3人1組からなる「防疫軍人」を24時間体制で配置する措置だった。

「人民の生命と安全を守る」という建前だったが、地域住民を食い物にしていた実態が明らかになった。韓国・サンド研究所が運営するメディア「サンドタイムズ」が伝えた。

国営の朝鮮中央テレビは当時、防疫軍人たちが「水と空気さえあれば大丈夫だ」と語り、住民からの食糧提供を断る姿を繰り返し放映していた。

しかし、現場の実態は異なっていた。平壌市内のある地区の責任者は次のように証言する。

「ハタハタ、ジャガイモ、人造肉(ソイミート)を渡したら、『こんなもの食えるか』と言われ、卵や肉を要求された」

防疫軍人たちは住民から当番制でおかずを徴収する仕組みを取り、困窮する住民からは「防疫軍人ではなく、タダ飯食いの寄生虫だ」といった不満が噴出していた。

朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』は、防疫軍人による薬の供給を美化し、「愛の不死薬」と表現し、「党中央からの派遣員として、担当哨所を戦場の塹壕とみなし、偉大な人民愛が凝縮された貴重な薬品、愛の不死薬を平壌市民にそのまま届けるという意志が込められていた」と報じていた。

しかし、現実は正反対だった。

薬は医師が発行した処方箋がなければ入手できず、一部の医師は軍医と結託して知人に偽の処方箋を発行しリベートを得る不正も横行していた。

一方、貧しい人々は、わずかな解熱剤を買うために夜通し薬局に並ばなければならず、薬が品切れになると軍人は倉庫から抜き取った薬を高値で横流ししていた。情報筋は「処方箋・医薬品販売・闇取引が一体化した三角カルテルが形成されていた」と述べた。

医大生の中には、薬の成分すら把握しておらず、医師に「処方箋の薬って何ですか?」と聞くような場面もあったという。

平壌・大同江区域の住民の一人はこう語った。

「テレビでは『訪問診療』と言っていたが、うちの区域では一度も家に来たことはなく、薬局前で金を取って薬を売るだけだった」

当局は、薬剤師と幹部、いわゆる“トンジュ”(新興富裕層)による薬の横流しを警戒し、地域にしがらみのない防疫軍人を配属したとされる。だが、そもそもの供給量が足りず、やがて防疫軍人たちは「医薬品卸しの元締め」として振る舞うようになっていった。

ある情報筋は「軍服を着ていただけで、実態は“薬売り”だった」とし、「薬代や食料を巻き上げる新手のビジネスだった」と皮肉っている。

対北朝鮮情報筋は次のように指摘している。

「北朝鮮は、軍事と医療を融合させた『防疫軍人』という実験的システムをプロパガンダに利用したが、医療供給体制の崩壊が住民の不信感を加速させた」

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