北朝鮮の金正恩総書記は12日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談を行った。会談場所は、金正恩氏が肝煎りで建設を進めた元山葛麻海岸観光地区(以下、カルマ海岸リゾート)。金正恩氏はラブロフ氏を迎えるためクルーザーで登場し、会談もその船上で行われた。実に芝居がかった演出であり、その様子は朝鮮中央テレビでも報じられた。

金正恩氏の狙いは、ロシアとの蜜月関係を誇示するとともに、開業直後のカルマ海岸リゾートを世界にアピールすることにあるようだ。実際、ロシアの有力日刊紙「コメルサント」には、ラブロフ氏に同行した記者による現地レポートが掲載された。

記者によれば、「空港からホテルまでの移動中、目に飛び込んできたのは英語で書かれた『Pub』『レストラン』『ビデオゲームセンター』などの看板だった。中国語やロシア語の表記はなく、観光客の主流がロシア人や中国人であることを考えると異例だ」とし、「夕刻のホテル街はまるで映画のワンシーン。無人の街路に英語の看板、そして明かりのともる建物。記者たちが『本当に観光客は来ているのか』と北朝鮮の外交官に尋ねると、『ロシア人も現地の人もすでに滞在している』との回答があった」という。

ホテルの食事については、「14皿もの料理が1人10ドルで提供され、『高麗人参入り鶏スープ(※参鶏湯と思われる)』『カニのジュリエン』『牛肉の串焼き』などが並んだ。宿泊費は1泊90ドルで、国際水準の設備が整っていた」と評価している。

オープン直後であるとはいえ、実際にどれほどの観光客が滞在しているのかは疑問が残る。記者は「バルコニーからは数キロに及ぶビーチが一望できたが、土曜の朝でさえ観光客の姿は見られなかった」「ビリヤードをしていた男女の姿があったが、彼らは記者が戻った夕方にも同じ場所にいた」「ビーチ沿いには、日光浴をする人々やサイクリングをする者、バーでビールを飲む者など、一定の“リゾート風景”は確認できた」と記した上で、次のような疑問を投げかけた。

「あまりにも“観光客らしからぬ”彼らの様子は、演出されたものではないか。彼らは観光客というより、朝鮮労働党の関係者や役者かもしれない」

現在のロ朝関係を考えれば、本来ならば提灯記事を書く場面かもしれないが、記者は全体的に抑制的なトーンで評価しつつ、北朝鮮特有の“体裁を整えるだけ”の悪弊をさりげなく指摘している。ロシア人記者でさえ、閉鎖国家・北朝鮮に対する違和感を隠せなかったのだろう。
金正恩氏が外相をも動員してゴリ押しするカルマ海岸リゾートの将来は、決して明るいとは言えなさそうだ。

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