北朝鮮の金正恩総書記の妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏が約1年半ぶりに公式の場に姿を現したことをめぐり、北朝鮮内部での権力層間の利権対立やけん制の動きが背景にあるとの見方が浮上している。
朝鮮中央通信は先月26日、金正恩氏が李雪主氏、娘のジュエ氏と共に元山葛麻海岸観光地区の竣工式に出席したと報じた。
韓国のサンドタイムズが対北消息筋の話として報じたところによると、李雪主氏は最近、娘のジュエ氏の台頭に伴い政治的な立場が後退しており、その背景には李氏の一族による外貨稼ぎ事業への関与に対する内部の牽制があったという。
李雪主氏の家族は、かつて粛清された金正恩氏の叔父、張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長の失脚後、平壌市内のタクシー事業や観光業など高収益事業の利権を掌握。中国製タクシーを大量に導入し、都市部の路線を地方に移すことで莫大な利益を得ていたとされる。
党組織指導部はこうした実態を把握しながらも、忖度から報告できずにいた。ところが金正恩氏の妹・金与正(キム・ヨジョン)党副部長が結婚後、李氏一族の不正を問題視し牽制に乗り出したという。与正氏の夫は人民軍総政治局所属のエリートで、金正恩氏の信任も厚い人物とされている。
こうした動きの中、金与正氏が李氏側の外貨事業拡大に歯止めをかけたことで、李氏の公的活動が一時停止されていた可能性をサンドタイムズは指摘している。ジュエ氏の登場は金与正氏の影響力低下につながったとの見方もあったが、牽制が事実なら、むしろ同氏が依然として権力中枢にいることの証左とも取れる。
北朝鮮では、最高指導者とその家族・側近による非公式な利権構造が権力の実態を形作っており、外貨稼ぎ企業は軍や党、内閣など各機関の傘下に多数存在。リソース配分や収益を巡る内部対立が常にくすぶっているとみられる。
消息筋は「金与正氏自身も独自の外貨会社を通じて貿易活動を行っており、李雪主氏一族との利害対立が今後の権力構造に影響を与える可能性がある」とサンドタイムズに述べている。