北朝鮮の金正恩国務委員長が「最大の成果」として自ら主導した大規模温室農場建設プロジェクトが、完成直後から手抜き工事による問題を抱え、各地で崩壊と修復・再建を繰り返していると、韓国のサンドタイムズが報じている。北朝鮮当局は「世界最大規模の温室農場が全国に完成」と大々的に宣伝しているが、現地住民は「そこで育てられた野菜を一度も口にしたことがない」と証言している。
この温室農場は、咸鏡北道の中坪(チュンピョン)温室農場、咸鏡南道の延浦(ヨンポ)温室農場、そして平壌市江東(カンドン)郡の江東温室農場の3カ所にまたがって建設され、いずれも金正恩氏が設計を指示し、軍部隊を動員して短期間で建設された「国家事業」である。北朝鮮メディアは「一年中全国民に新鮮な野菜を供給できる近代農業の最高峰」と称賛していた。
しかし、実態は異なる。サンドタイムズの現地消息筋によれば、これらの施設は工期を最優先し、構造の安全性や実用性を軽視する「速度戦」で作られた。江東温室農場では、竣工後も軍人が残り、継続的に補修作業を行っているという。
特に中坪温室農場は、今年の冬に異例の豪雪と厳しい寒波で深刻な被害を受けた。施設内の野菜は凍結死し、一部の温室は崩壊するなどの被害が報告された。この農場は、2019年12月に軍用飛行場跡地に造成され、約130万平方メートルの敷地に300棟以上の温室が設置された象徴的施設で、金正恩氏が直接テープカットに臨んだ「記念的プロジェクト」であった。
一方、最も新しい江東温室農場は、東京・代々木公園の約5倍に相当する2.6平方キロメートルの超大型施設で、金正恩氏がロシアのプーチン大統領から贈られた高級車で娘・金主愛と共に登場したことでも話題となった。
だが、同農場周辺の江東住民は「温室の野菜を見たことすらない」とサンドタイムズに語っている。実際、供給先は児童施設や体育団、党幹部用の食堂などに限られ、一般市民にはほとんど配給されていない。平壌市内ですら流通していない状況だ。
さらに、地方の住民の状況はより厳しい。温室で野菜を生産しても、燃料費や輸送コストの問題で流通が止まってしまうケースが多く、「温室の近くに住んでいない限り、野菜は手に入らない」との声が多く聞かれる。
大規模な国家事業として喧伝された温室プロジェクトは、実際には指導者の「成果誇示」に終始し、国民の食生活改善にはつながっていない。大北朝鮮消息筋は「住民の間では、結局は宣伝用であって、自分たちの生活には何の恩恵もないという冷ややかな見方が広がっている」と指摘している。