平壌・和盛地区に登場した「コンピュータ娯楽館(いわゆるネットカフェ)」が実際に運営されていることが確認された。しかし、表向きは住民に開放された娯楽空間でありながら、裏側では国家当局による徹底した監視と統制が行われていると、北朝鮮内部事情に詳しい複数の情報筋が伝えている。
娯楽館は午後1時から夜9時まで営業し、利用者は入館時に身分証や学生証を提示。入退場の時刻や使用したコンピュータの番号まで逐一記録される。月単位の利用券を購入すれば電子カードで出入りできる仕組みもあるが、この場合も登録制となっており、利用履歴はすべて当局に把握される。
設置された端末は北朝鮮のイントラネット「光明網」に接続可能だが、外部インターネットへの接続は完全遮断。さらに接続や操作の記録が自動保存され、全ての画面は中央管理室でリアルタイム監視されている。現場の管理要員が定期的に巡回し、政治的に問題のある発言や行為が見つかれば直ちに上部機関へ報告する体制が敷かれているという。
「文明生活を体験できる便宜施設」と喧伝される一方、実態は「誰が何をしたのかを細部まで把握する監視装置だ」との見方が住民の間では強い。ある情報筋は「映画を見たりゲームを楽しめるが、一つでも誤った言動をすれば処罰対象になるため、利用者は常に緊張感を抱えている」と証言する。
加えて、和盛区域の安全部や国家保衛省が定期的に施設を検閲。単なる運営監督にとどまらず、体制維持に害を及ぼす芽を摘むことが主眼とされる。
こうした統制の中で、施設を「娯楽空間」ではなく「思想統制の戦略的装置」と評価する住民も少なくない。「統制の中で文明生活を享受していると錯覚させるための演出だ」と冷笑する声も聞かれる。
一方、利用者の中心は大学生や高級中学(高校)の生徒で、競馬や自転車レースなど単純なゲームが人気だ。新作が追加されると口コミで客足が増える現象もみられるという。料金は1時間当たり5000北朝鮮ウォン(約24円)で、電子カードや携帯電話による決済が可能。飲料や菓子類、プリント・コピーなどの有料サービスも併設され、収益は当局や社会主義愛国青年同盟の資金に組み込まれているとされる。
当局は今後、元山や新義州、咸興など地方の主要都市にも同様の娯楽館を展開する計画を進めているという。表向きは「文明的余暇の拡大」だが、実際には監視網を拡大する布石とみられる。