先月29日、平壌・木蘭館(モンラングァン)で開かれたロシア派兵戦死者遺族への慰労行事をめぐり、北朝鮮各地の住民の間に複雑な反応が広がっている。デイリーNK内部情報筋によると、国家保衛機関には「住民の動揺が目立つ」との報告が相次いで上がっているという。

行事では、金正恩総書記が戦死者の遺族に直接会い、涙を見せながら「特別な配慮」を約束。戦死者の子どもたちを革命学院に入学させ国家が教育に責任を持つことや、遺族のための住宅街を平壌に建設する構想を明らかにした。北朝鮮メディアは、遺族が「最高指導者の恩情に感激し号泣した」と大きく報じた。

しかし、これを見た人々の受け止めは一様ではなかった。平安北道の情報筋によれば、地方の保衛部が集めた動向資料には「涙は感激ではなく、夫や子を失った悲痛の表れ」と見る声が多く記録されているという。

一部住民は「平壌での優遇」と宣伝されても、実際には国家が生活を全面的に保障できるはずはなく、結局は“悲しみだけが残る”と冷めた見方を示した。さらに「盆暮れや国家の祝日に多少の配給品などの配慮はあるかもしれないが、それよりは地方で自由に商売できる環境で暮らした方がまし」「平壌に呼ばれても、経済基盤もなく生活は成り立たない」といった声も公然と広がった。

こうした雰囲気の中で、親たちの間では「子どもを軍に送るのは避けたい」という心理が一層強まっているとされる。秋の徴兵対象者をめぐり、名簿から名前を外そうと地方幹部に裏取引を働きかける事例も出ており、保衛機関は警戒を強めている。

実際、道保衛局は「動揺を示す住民は即座に調査対象とせよ」と各地に通達。徴兵に関する噂や不満が広がらぬよう、内部監視と統制を徹底するよう命じたと伝えられる。

表向きは「最高指導者の恩情」を演出した慰労行事だが、住民の間ではむしろ不信と不安を募らせる結果となりつつあるようだ。

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