北朝鮮・黄海南道海州市で、列車の貨物車両を利用した“闇物流ビジネス”で巨額の富を築いた20代の青年2人が当局に摘発された。だが彼らは最終的に巨額の賄賂を積み、釈放されたという。

事件そのものも興味深いが、それ以上に浮かび上がるのは、極限状態の社会を生き抜こうとする北朝鮮青年たちのたくましい生命力である。

デイリーNKの現地消息筋によれば、2人は海州鉄道隊の青年作業班に登録されていたが、上役にワイロを渡し、記録上だけ出勤扱いにしていた。そして実際には職場で働かず、列車の貨物車両の中にアジトを構え、その貨車で平壌、新義州、恵山など全国に密輸品などを運ぶ物流ネットワークを築いていた。

運んでいたのは家電製品、中国製衣類、高級食材など。鉄道保安員や機関士にワイロを渡し、一般住民には近づけない貨車スペースを意のままに利用していたという。

北朝鮮では国家配給システムの弱体化以降、「生きるための商売」が社会の実態となった。若者たちはもはや工場や農場で真面目に働くだけでは生活できない。そこで彼らは国家の隙間を縫い、鉄道、密輸、人脈、賄賂を組み合わせ、自ら市場経済を作り上げてきた。

今回の2人は、その“完成形”に近かったのかもしれない。

海州の市場では「彼らの手を経ない商品はない」とまで言われていたという。20代にして、並の「トンジュ(新興富裕層)」を超える資金力を持っていたとも伝えられる。

もちろん当局も黙ってはいない。

最近の北朝鮮では、若者の「非社会主義行為」への取り締まりが急速に強化されている。背景には、若者が国家より市場を信じ、党組織より現金を頼るようになっている現実への危機感がある。

だが皮肉なのは、取り締まりそのものが新たな利権化を招いている点だ。

今回も青年らは拘束後、これまで癒着してきた複数の幹部に助けを求めた。幹部側は事件揉み消しの見返りとして、以前よりはるかに高額の賄賂を要求。青年たちは蓄えた財産の大半を吐き出して釈放されたという。

つまり国家は彼らを完全には潰せない。なぜなら、その“闇経済”に国家機関自身が深く依存しているからだ。住民の間では、「取り締まり強化は、結局は幹部たちの臨時収入を増やすだけ」と冷ややかな声も広がっているという。

それでも、この青年たちのような存在は今後も現れるだろう。国家が未来を与えてくれないのだから、自分で稼ぐしかない。機能不全の制度は、人脈で突破することができる。

摘発されても、うまく立ち回れば生き残れる可能性もある。

北朝鮮の若者社会は閉塞している。しかし、表面から見えない一種の「地下世界」では、生き残るための知恵と欲望と行動力が、むしろ資本主義社会以上にむき出しの形で脈打っているのかもしれない。

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