小学校に校庭がない!?
児童数1000人超のマンモス校が抱える課題

 児童が集まることは人気の公立小学校区の証しである。「教育環境力」ランキングでも評価のポイントにした。

だが、増えすぎることで弊害を生む例もある。

 隅田川と荒川の間に位置する足立区の新田小学校区。2010年度に「新田学園」が小中一貫校としてスタートし、同校の児童数は小学校だけで1350人、クラス数は40クラスに及ぶ、都内屈指のマンモス小学校だ(2019年度)。

 もともとは足立区の中でも、のどかで落ち着いた雰囲気の小学校区だったが、近年、再開発が進んだことで高層マンションが次々できた。都心に通うファミリー世帯のみならず、海外の富裕層もこの地を気に入って住むようになった。

 すると、児童が足立区の想定を超えて増えてしまった。校舎の収容定員があっという間に埋まってしまったため、足立区は2013年に「第二校舎」を建設。現在は、1~4年生までの児童約900人がそこで学んでいる。

 問題は、一般的な校庭が第二校舎にはないことだ。体育の授業は人工芝の中庭や体育館などで済ましているものの、運動会準備のように大規模なものについては、第一校舎まで足を伸ばさなければならない。

 そのため、教員の引率の下で児童が大型スーパーマーケットの横を整列して歩くという光景がある。向かう先は、およそ150メートル先にある「第一校舎」だ。

 足立区もそれに対策を講じている。第二校舎から約500メートル離れた旧校跡地にグラウンドを新設するための予算案を議会に提出、来年度に向けて整備が進んでいる。徒歩で通うのは大変なために、バスの運行も検討している。だが、保護者からは不満や困惑の声が聞こえてくる。

 長らく新田地域に住む母親は「昔に比べ学力も上がりました。人数が多くて多様性があるので気に入っていますが、運動会ともなれば子どもを見つけるのもやっとの思いです。ぎゅうぎゅう詰めで、屋外なのに息苦しい。新しいグラウンドについては学校から遠く、授業の合間にバス通いとなると本当に子どもたちのためになるのでしょうか」と話す。
  
 このように、人気の裏返しに、人数がふくれあがったことで思わぬ問題が生じてしまうこともある。新田小学校区は児童数ランキング(2019年度)でトップだ(図参照)。

 ではここからは、児童数以外も含めて、「東京・小学校区『教育環境力ランキング』」の特集内でご紹介できなかった興味深い指標をランキング形式でお伝えしよう。一つ目が職業である。

専門職と管理職の多い小学校区はどこか

 今回、小学校区の実力を探る際に利用したデータに国勢調査がある。これには職業に関する項目があるため、校区における「専門職比率」と「管理職比率」を知ることができる。

 前者は、地域に占める「専門的・技術的職業従事者」の割合を示し、医師や弁護士、研究者、教員、エンジニア等の専門職がどれだけいるかを指すものだ。後者は、「管理的職業従事者」の割合を指しており、いわゆる会社・団体のトップや部課長等の割合を指す。

 この専門職比率をとると、都内トップ3がいずれも文京区だった。

 具体的には、1位が湯島小学校区で32.3%となった。2位も本郷小学校区で31.7%、3位も誠之小学校区の31.3%だった。いずれも、教育熱心な親からの人気が高い小学校区である。

 このデータからわかるのは、文京区の小学校区は、東京大学をはじめとした教育機関や医療機関が多い文教地区ゆえ、比較的、研究者や士(サムライ)業、教員など専門職の多い地域ということだ。

 また、第2回記事(東京・小学校区「教育環境力」ランキング【学力偏差値トップ25】)でも示したように、文京区の学力は都内トップである。この地域に子どもを通わせる親は、専門職を中心とした職業が多く、教育熱心な傾向にあるだろう。

 次に管理職比率のほうをみてみよう。

 トップは、渋谷区の常磐松小学校区の10.2%だ。渋谷の東側で、広尾も一部含む高級住宅地域に位置する。同校の児童数は139人(2019年度)と1学年1学級の小さな学校だが、渋谷の中でも比較的落ち着いた地域にある。

 2位は千代田区の番町小学校区で10.0%だった。名門小学校区として名高いだけあって、集まる親のレベルも高いことがこのデータからうかがえる。同じく2位である渋谷区の神宮前小学校区は、表参道ヒルズの裏に位置するブランド小学校区である。来年度の新入生において、60人の受け入れ可能枠に対して85人の希望が集まっている人気ぶりだ。

 いずれの地域も、他の地域に比べて、経営者を含めて企業・団体のトップや部課長クラスが多い地域だということである。最後に、もう一つ別の視点でもみていこう。それが官舎・社宅比率である。

公務員官舎・社宅の多い小学校区はどこか

 これは、世帯の住宅のうち、公務員官舎や社員寮、社宅などの給与住宅が占めているのかを示す比率である。

 目黒区の東山小学校区のように、公務員官舎や社宅のある地域は、特異点的に学力が上がる傾向がある(第1回記事「東京・小学校区「教育環境力」ランキング【主要30自治体トップ3】」参照)。

それも、難関試験をパスした公務員世帯のため、基本的に教育熱心だからだ。

 官舎・社宅比率で23%とトップとなったのが、葛飾区の西小菅小学校区である。

 小菅というと、東京拘置所にほど近い地域であるため、意外な印象を持ったかもしれないが、実は2010年に1000戸超の大規模な国家公務員宿舎が誕生している。そのため、世帯の官舎・社宅比率が他の地域に比べて飛び抜けており、児童数も増加傾向にある。千代田線や常磐線の通る綾瀬駅にも抜けられるため利便性は高い。公務員世帯が集まっている小学校区として、今後注目されることだろう。

 また、2位の九段小学校区は14.9%で、3位が前述した東山小学校区の13.6%である。名門地域には、高所得世帯層だけでなく、官舎・社宅組が高い割合でいるということだ。このように、官舎・社宅比率もあながち無視できない指標なのである。

 これまで全5回にわたって、データから小学校区の教育環境力について探ってきた。中には納得がいく話も、いかなかった話もあっただろう。データはあくまでもデータだ。

これらを参考に、実際に小学校の説明会や現地の見学を通して、それぞれにあった教育環境を探してもらいたい。

 より詳細なランキングや見逃した記事に興味のある方は、特集ページや関連記事をぜひご参照いただきたい。

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